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浜田の野望

憩いの里に一体何が起きているのか……


用心して施設を一度通り過ぎた、良く見ると駐車場付近の芝生の上で何かを燃やしているようだ。


「あれは……遺体ですね……」


「ああ、なるほど亡くなった老人がゾンビ化する前に燃やしているんだな……」


何人かが、手を合わせているのも確認できた、白崎先生もいた、彼女はハンカチを握りしめて泣いていた。


少し間の悪さを感じるが、こちらも緊急の患者を抱えている、危険が無いなら行くしかない。

僕は車を戻して、憩いの里に乗り入れて停車した、初めてこの車で訪れたからか警戒されているように見えた。


「僕です、井上です。衰弱して危ない状態の子供を保護したので、どうか力を貸してください」


車から降りて大声で呼びかけると、白い煙の向こうから僕の姿を認めた白崎先生が、目元を真っ赤に腫らしたまま、驚いたようにこちらへ駆け付けてくれた。


「井上さんだったのね、驚いたわ。それで、ああ……この女の子ね」


さすがは本職の医師だけあって、悲しみに沈んでいた表情から一瞬でプロの顔つきに変わる。手早く体温や脈を測り、小さな瞼をそっと開いて貧血の具合などをテキパキと検査していった。


「どうですか?」


「かなり衰弱しているわ、だけど大丈夫、点滴をして食養生すれば元気になるわ。誰か医務室に運んでください」


「僕が運びます」


僕は助手席からぐったりとした少女を素早く抱き上げた。医務室は3階なので、そのまま建物の階段に向かって急いだ。


「奈緒、悪いけど車を邪魔にならない所に移動しておいてくれ、僕は医務室に向かうから」


「井上さん、腕から血が出ていますわ。昨日のキズが開いたのかしら」


並んで階段を駆け上がっていた白崎先生が、僕のシャツの袖口からじわりと滲み出ている血に気が付いたようだ。


「これは……ゾンビに噛まれてしまいまして……」


「えっ、そんな……ゾンビに噛まれてしまったの……イヤ、井上さんがゾンビになるのはイヤ、どうして……ああ、こんな事なら気持ちを伝えて……」


「先生、落ち着いてください。噛まれたのは服の上からで、昨日の出来事ですから。体調に変化はありません」


「昨日なんですか?それなら……良かったわ、ホントに良かった……」


先生は胸に手を当てて、崩れ落ちんばかりに深い安堵の息を漏らした。


「先生、気持ちを伝えるとは?何でしょうか?」


「……わ、わたくしそんな事を言いました!?それよりもこの子を治療します、その後で井上さんのキズも見せてください!」


白崎先生は急に我に返ったように、目を合わせないように早口で話した。その横顔は耳の付け根まで真っ赤に染まっている。

不埒な考えが一瞬頭をよぎったが、大きく首を振って気持ちを切り替えた。今は腕の中の小さな命を救う事が最優先だ。


医務室に着くと、用意されたベッドに少女を静かに寝かせた。手を素早く消毒し、白崎先生の言い付けに従って点滴の準備を手伝う。子供の小さく細い腕に針を刺すのは素人目にも難しそうだったが、彼女は専門医としての確かな技術で難なくこなしていた。


「これで大丈夫。次はあなたよ。上を脱いで噛まれた傷を見せてください」


言われた通りに革のジャケットを脱ぎ、下に着ていたTシャツも脱いで上半身裸になった。先生の視線が僕の胸板や肩に注がれる。


「傷は大きくは無いけど……縫うのは難しいわね。完治には時間がかかりそうよ。それと……」


白崎先生は傷口に触れていた手を止めると、僕の額にそっと手のひらを伸ばした。


「やっぱり熱いわね、発熱している。恐らくケガをしているのに激しい運動をしたからだと思いますが、用心をして今日はここに泊まってください」


言われてみれば、確かに頭が少しダルく、身体の芯が熱い。色々な事が起きすぎて気が張っていたから、自分の身体の不調に鈍感になっていたのかもしれない。

拠点にしているマンションの事は心配だったが、あそこの5階までの安全はしっかり確保してある。広瀬さんの娘の容態も気になるし、何よりこの身体では無理は禁物だ。今日はここに泊めてもらう事に決めた。


処置を終えて廊下に出ると、奈緒の両脇に大場と浜田が座って楽しそうに話していた。


「あっ、マサキさんどうでした?」


「女の子は大丈夫そうだ、今は点滴をしている。それと、僕は少し熱があるようで、今日はここに泊まるように先生に言われたよ」


「えっ、熱が有るんですか!?心配です……私も泊まります」


「いや、君は戻ってくれないか?みんなが心配していると思うから、ここまでの状況を伝えてほしいんだ」


「ああ、そうですね。確かにみんな心配していると思います。分かりました、あたしは一度帰って、明日また迎えにきますね」


「ああ、そうしてくれ。せっかく大場くん達と友達になれたようだから、急いで帰らなくてもいいからな」


そう話すと、大場は照れくさそうに嬉しそうな顔をした。見た目は少し乱暴そうに見えるが、根は素直な男なのかも知れないな。

そんな事を考えていると、隣にいた浜田が声をかけてきた。


「井上さんがお泊まりになるのでしたら、お部屋に案内しますよ」


「それはありがたいです、ソファーで寝ることを覚悟していましたから」


浜田に連れられて2階の部屋に案内された。どうやら生き残っている老人はこのフロアで寝泊まりしているようだ。


「急に部屋を用意していただいてありがとうございます」


「いえいえ、この騒動の前には50人程の利用者がいたのですが、今は半分になって部屋は有り余っていますから」


「半分ですか……そんなに亡くなってしまったのですか」


「節電による温度管理不足がご老人には辛いようで。それに、薬不足もありましてね」


「なるほど……」


この施設も自家発電の設備はあるようだが、燃料の節約もあり、昼夜問わずエアコンを使用するのは難しいのだろう。それと、薬不足か。


「薬のアテは無いんですか?」


「この施設の系列の病院に行けば手に入るとは思いますが、あそこまで行くのは危険ですから」


「確かに危険ですね」


自分自身が負傷したことで再認識したが、この施設とは今後も良好な関係を築いていく必要がある。

薬を調達するのは確かに危険では有るが、僕の戦闘力と奈緒のサポートがあれば、それほど難易度が高いとは思えなかった。

今回の恩返しを兼ねて「僕が調達してきましょうか」とかって出ようかとも考えたが、まずはここの内情をもう少し様子を見る事にした。


「綺麗な部屋ですね、まるでワンルームマンションのようだ」


「最近の施設はこのタイプが多いんですよ。何か有りましたら私に言ってください。この施設の実質のトップは、私ですから」


浜田はフッと鼻で笑いながら、傲慢な笑みを浮かべた。


「そうなんですか?施設長は白崎先生だと紹介されましたが」


「あの女は、今となっては施設常勤の医者に過ぎませんよ。介護士などの給金の意味が無くなった今、この世界で支配するには力で従わせるしか無いんです。井上さんも、それはよく分かっているはずだ」


「……その考えは、間違いでは無いですね」


浜田の話しは平常時なら激しく非難されるべきものだが、道徳やモラル、警察も機能していないこの極限状況では、現実として受け入れざるを得ない側面もある。


「さすがに話が早い、井上さんは私と同じ種類の人間だと思っています」


「同じ種類とは、どのような意味合いで?」


「奈緒さんの話から察するに、井上さんは何人かの女性と暮らしておられますよね。それはやはり性的に従えておられるのかと思いまして?」


遠慮のない詮索に驚いたが、奈緒に対する牽制も考えハッキリ言っておくことにした。


「そうです、全員と身体の関係にあります」


「やはりそうですか、私もこの施設の若い女性職員は何人も調教済みです」


「調教……ですか、それは精神的に?」


僕が問うと浜田は少し考えるような素振りを見せた後に答える。


「精神的に、とはさすがに考えが深いですな。私には元々SMの趣味がありまして、この騒動までは金で自由になる女で楽しんでいたのです」


「SMとは女性を縄で縛ったりするあれですよね」


「そうです、肌に食い込む縄、自由を奪われ苦痛に涙しながらも快感に酔う女性の姿は、醜くも美しくもあり興奮しますよ。そして何よりも女性を完全に支配している事に心が満たされる」


浜田の言わんとする事は理解できた、あまりハードな物には嫌悪感を抱くが、僕にも自由を奪って行為に及ぶ事に興奮する感じは確かにある。


「まさか、ここの職員の女性にも?」


「当然です。とは言え若い女性は少ないですし、まだ数日ですから調教したのは数人ですけどね、よければ今夜は調教済みの女で楽しまれてみてはどうですか?その代わり奈緒さんを回していただきたいですがね」 


下卑た笑みを浮かべる浜田の言葉に、僕は内心で激しい嫌悪感を抱いた。


「はっはは、ご冗談を。お話は理解出来ますが、奈緒に見合う女性はここには白崎先生くらいしかいないんじゃないですか」


話を合わせつつ探りを入れると、浜田は我が意を得たりとばかりに頷いた。


「ん~、確かに奈緒さんと釣り合う女は白崎位ですかね。しかしあの女は、私の嫁にして今後の施設運営に役立てようと考えていましてね。いつでも手を出せるのですが手荒な真似は控えていたのです。しかし、そういう話でしたら少し急いで調教しましょう」


「白崎先生なら異存はありません」


「私も、新しい女の目途が立つなら、早く白崎を支配下に置く必要がありますしね」

 

僕は適当に話を合わせて笑ってみせたが、腹の底では猛烈な怒りが湧き上がっていた。

反吐が出そうだ。この施設はダメだ、この男をのさばらせておいては、いずれ僕たちにも害が及ぶ。早めに手を切るか、あるいは根こそぎ叩き潰す必要が有りそうだ。

どうするか、こういう時はウチの拠点で待つ優秀な参謀達に考えて意見をもらうのがいいか

浜田が部屋を出ていくと、僕はすぐに動き出した。

机の引き出しを開けてメモ用紙とペンを探し出す。この施設の危機的な状況と、浜田の不穏な企みを簡潔に書き連ねた。

「利用者が半分に減少。エアコン管理不足、致命的な薬不足」「浜田が力による支配を目論んでいる。白崎先生を狙っており、奈穂にも目を向けた。この施設は危険だ。早めに手を切るか、対策を講じる必要がある」


書き終えたメモを小さく折りたたみ、急いで廊下へと戻った。幸い、まだ大場や浜田は近くにはおらず、奈穂が一人で帰る準備を整えていた。


「奈穂、これを」

僕は周囲を警戒しながら、素早くそのメモを彼女の手に握らせた。


「マサキさん、これは……?」


「この施設の状況を簡潔にまとめたものだ。すぐにマンションに戻って、ウチの参謀達――彩香や冬子に見せてくれ。僕がここに泊まっている間にどう動くべきか、みんなに考えてもらいたいんだ。浜田という男がかなり危ない。だから君も、用が済んだら寄り道せずにすぐ帰るんだぞ」


「……分かりました。状況はみんなにしっかり伝えます。マサキさんも、お熱があるんですから無理しないでくださいね。明日、必ず迎えにきますから」


奈穂は真剣な表情で頷くと、メモをポケットに深くしまい込み、足早に施設を後にした。彼女の姿が見えなくなるのを見届けてから3階の診療室へと向かった。

※少し過激な性描写や表現もありますから、ミッドナイトノベルに移行中です




18禁になるであろう閑話と挿絵も追加してあります

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