苦悩
アフターピルの消費が激しい。
元々は6錠が収納されているシートが5枚、計30錠あったのだが、すでにその備蓄は半分になろうとしていた。
コンドームを使えばいいだけの話なのだが、僕も女の子達も、すっかり生の中出しの強烈な気持ち良さを知ってしまって一度行為が盛り上がってしまうと、欲望に抗えず、どうしても中で出してしまっていた。
「あっ、もう、イキそう。お願いマサキさん、中で、雪乃の中にいっぱい出して……っ。子宮を精子で満たしてほしい、あああっ、熱い……!」
昨夜はひどい目に遭った冬子を労い、ゆっくりとセックスをして眠りについたのだが、早朝、下半身を包むあまりの心地よさに目を覚ますと、雪乃が僕のモノを熱心に舐めてくれていた。
そのまま彼女に上に乗られる形になり、また朝から雪乃のなすがままに腰を振るセックスを堪能した。隣で冬子が一瞬目を覚ましたものの、相手が雪乃だと分かると、咎めるようなことも何も言わずに、また静かに眠りに落ちていった。
ひと汗かいた後、起き出し朝食を済ませた僕は、昨日彩香に言われていた通り、腕の切り傷を診てもらうために医療老人施設憩いの里へ向かうことにした。
コンビニから調達した傷薬やガーゼを使って奈緒が簡単な手当てはしてくれた。しかし、冬子や雪乃と激しいセックスをして身体を動かしたせいか、外す前のガーゼは血で真っ赤に染まっていた。
奈穂の運転するバイクの後ろに跨り、怪我をしていない片手で彼女の腰にしっかりと掴まる。奈穂は僕の腕を気遣って、いつもよりゆっくりと安全にバイクを走らせてくれた。
無事に憩いの里に到着し、玄関の扉を叩いて要件を告げると、奥から職員が出てきて快く中に通してくれた。彩香が提案した医療施設との友好関係の構築という目論見は、さっそく功を奏した形だ。
「……綺麗な切り傷ですね。不躾ですが、どうされたか伺っても?」
診察室で僕の腕の処置を担当してくれたのは、施設のトップである白崎良子所長だった。彼女は手際よく傷口を消毒したあと、慣れた手つきで3針ほど縫合していく。
「ちょっとしたトラブルに巻き込まれましてね。外は今、かなり危険な状態なんです」
僕が言葉を濁しながら答えると、彼女は真剣な眼差しで作業を続けた。その見事な手際に感心し、僕は問いかけた。
「白崎さんは、外科の経験も有るのですか?」
「はい。今では父の病院もそれなりに大きくなりましたが、元々は個人病院でして。医療に携わるなら一通りの医療行為を身に付けろと、幼い頃より厳しく指導されていましたの」
「素晴らしいですね。白崎さんはお父さんにとても期待されていたんですね」
「ウフフ、どうなのかしら。そのおかげで、すっかり行き遅れになってしまいましたわ」
白崎所長は自嘲気味に、しかし上品に微笑んだ。
「独身なんですか? とても、お綺麗なのに……」
僕は思わず本音を漏らした。衛生面への配慮からか、豊かな黒髪を後ろで綺麗に纏めてメガネを掛けている彼女だが、肌は驚くほど色白で、一見すると華奢な印象を受ける。しかし、白衣の上からでも、胸とお尻の肉付きが非常に豊かであることは一目瞭然だった。さぞや抱き心地がいいだろう、と男としての本能が刺激される。
「井上さん……そんなに値踏みするように見ないでいただける? 恥ずかしいわ」
「失礼しました。白崎さんがあまりにお綺麗なもので、つい不埒な妄想をしてしまいました」
僕が正直に謝罪すると、彼女はクスリと声を立てて笑った。
「うふふ、面白いかたですね」
処置が終わると、傷の経過を注意深く見たいので明日も必ず来るようにと言われた。丁重に礼を言って診療室の外に出ると、ロビーで待っていた奈穂に、施設の男性職員たちが親しげに話しかけているのが見えた。
一人は、昨日初めてこの施設を訪れた際に玄関に出てきた浜田という男。そしてもう一人の若い男は初めて見る顔だった。
「奈穂、待たせたね。治療してもらったよ。……何だか、楽しくお話できたようだね」
僕が声をかけると、奈穂はパッと表情を明るくして振り返った。
「あ、マサキさん! はい、この方達に、施設の内部の事を色々と教えて貰っていたんです」
「初めまして。ここで介護士をしています、大場です」
そう言って僕に向き直った男は、髪を明るく染めており、どこかヤンキーのような風貌をしていた。お世辞にも、お年寄りをケアする介護職に従事しているようには見えない雰囲気だ。
大場は、僕の隣に立つ奈穂をチラチラと見ながら調子のいい声を上げた。
「奈穂ちゃんに聞いたんすけど、お二人で外の物資の調達をやってるんですよね。もしよければ、俺もその調達に連れていって貰えないっすかね?」
すると、横にいた浜田も真剣な顔で僕に頭を下げた。
「井上さん、この状況が長引けば、この施設の物資もいずれ底をつくのは目に見えています。大場を連れていってください、私からもお願いします」
僕は大場の品定めをするように目を細めた。
「大場くん、君はバイクの運転は出来るのか?」
「バッチリっすよ! 普段からバイクで通勤してたんで、下の駐輪場に俺のマシンがとめてあります。腕っぷしにもそれなりに自信は有るんで、絶対に戦力になりますよ。……俺が、奈穂ちゃんを守ってやるよ」
大場はニカッと笑い、奈穂に対して露骨なアピールを含んだ言葉を口にした。
「なるほど。前向きに検討しておくよ」
大場の言葉を軽く受け流し、施設を後にした。
僕達はこれまで、なるべく人との遭遇を避けて隠密に行動してきた。だが、日を追うごとに街の治安が悪化している、今後はゾンビだけでなく、悪意の有る人間に狙われる可能性も高くなっていく。そう考えると、僕と奈穂の2人きりでの行動には限界があるのも事実だった。いずれは、信用出来る仲間を増やしていく必要があるのだ。
――パンパン、パンパン、パンパン。
「はっ、あっ、はっ、ああん……っ! 好き、マサキさん大好きぃ……っ!」
施設を出た後、奈穂が大場や浜田と親しげに男同士で仲良く話していた光景が、僕の胸の中にどす黒い嫉妬の炎を燃え上がらせていた。彼女に対する独占欲と欲情が抑えきれなくなり、帰り道、いつものお気に入りの橋の上にバイクを止めると、僕は奈穂を立たせたまま、バックの体勢で激しく彼女の身体を犯していた。
「奈穂……君は、あの大場って男に誘われて、嬉しかったんじゃないのか?」
腰を強く打ち付けながら、意地悪く彼女の耳元で囁く。
「いえ、あっ……! 私に好意が有るのは、何となく感じましたが……っ、あっ、ああ、そっちじゃなくて、奥がいいです、奥に突いて……っ!」
奈穂は狂ったように腰を振り、僕のペニスをせがんだ。
「覚えて置いて欲しい。もし君がそれを望むなら、いつでも他の男の元に行けばいいからな」
「ああ、イヤ、イヤです……! 私はマサキさんだけが好きなんです……っ! お願いですから、私を捨てないでください……っ!」
奈穂は泣きそうな声で愛を乞い、必死に僕の手を取ろうとする。
「安心しろ。僕が奈穂を捨てる事なんて絶対に無い。……それより、そろそろ出そうだ」
「ああ、中でお願いします! 中に、奈穂の中にいっぱい出して……っ! ああ、嬉しい、ドクドクして熱いです……っ」
こうして外に出るたび、奈穂とこの橋の上で青空の下セックスをするのが、いつの間にか僕たちの秘密の日課になっていた。そしてまたしても、アフターピルの残量を気にしながらも欲望に抗えず、彼女の熱い膣内にたっぷりと射精してしまった。
行為が終わると、引き締まった奈穂の大きな尻をパチンとひっぱたき、その足を開かせた。ぱっくりと開いた彼女の愛液塗れのワレメから、僕の濃い精子がドロリと溢れ出てくる。
「奈穂、一応アフターピルを飲んでおきなさい」
「マサキさん……飲まなくてもいいですよ」
奈穂は溢れる精子を愛おしそうに見つめながら、ぽつりと言った。
「ピルの残りが少なくなってるって、彩香さんたちから聞きました。……それに私、マサキさんの子供を見てみたいんです」
「ダメだよ」
僕は彼女の髪を優しく撫でつつも、毅然とした口調で諭した。
「もし君が本当に妊娠して、お腹が大きくなって動けなくなったら、この世界では困るんだよ。だから、ちゃんと飲みなさい」
「……はい、わかりました」
奈穂は少し寂しそうに、しかし素直に頷いた。
マンションに戻る前、僕たちは1階のコンビニに立ち寄った。今後の立てこもり作戦に使うため、バックヤードのロッカーからモップを2本取り出す。
そのついでに、何気なく事務室の中を覗き込んだ僕は、次の瞬間、驚愕のあまり息を呑んだ。
そこに有るべきはずの、あの権藤の遺体が、影も形も無くなっていたのだ。
背筋に冷たいものが走る。注意深くコンビニの店内を観察した。すると、至るところに何かが激しく当たったような生々しい痕跡があり、頑丈なスチール製の陳列棚が不自然にぐにゃりと曲がっていた。
この凄惨な荒れ果てた状況から推測すると――首切られて死んだはずの権藤の遺体が、突如として起き上がり、店内で激しく暴れ回ったとしか考えられなかった。
しかし、そんな事があり得るのだろうか? 首から完全に頭の取れた人間が、どうやって動くというのだ。
謎と不安を抱えたまま、僕たちはマンションの上の部屋へと戻った。リビングでは、彩香と冬子が2人でパソコンの画面を真剣に見つめながら、何やら話し合っていた。
「おかえりなさい、マサキさん。無事に治療はして貰えたようね」
彩香が顔を上げて僕を迎える。
「ああ、白崎さんに3針ほど縫われたよ。それよりも……2人に緊急で話が有るんだ」
僕は先ほどコンビニで目撃した、権藤の遺体が忽然と消え去っていた事実を打ち明けた。
話を聞いた彩香は、即座に眉をひそめて首を振った。
「頭が完全に無くなった遺体が、自力で動き出すなんて医学的にあり得ないわ。きっと、生きている第三者が、何らかの目的で遺体をどこかへ動かしたのじゃないかしら」
「僕も最初はそう考えた。確かに常識では考えられない。だけど……これと非常によく似たケースを、この目で直接知っているんだ」
僕の言葉に、隣で聞いていた冬子が鋭く反応した。
「似ているケース、ですか?」
「ああ。以前、この部屋のオーナーの岡田という男が、ゾンビに首を千切られて死んでいた。それを見つけた僕は、あまりに不憫に感じて、転がっていた彼の首を見つけて、胴体の元の位置に戻しておいてやったんだ。そのままその場を去ったんだけど……」
「まさか、その首が繋がったのですか?」
冬子が信じられないといった様子で目を見開く。
「そうなんだ。僕は冬子と雪乃を助けるために、必死でゾンビの群れを潜り抜けた。その時、メルセデス・ベンツのドアを掴んで開けようとしている奇妙なゾンビがいてね……。よく見たら、首が不自然に繋がった、岡田のゾンビだったんだ」
「それはまた……ずいぶんとシュールな光景ですが、極めて興味深いお話ですね」
冬子はブツブツと顎に手を当てて呟き始めた。
「私はこれまで、ゾンビ化現象は何らかの未知のウイルスが脳内で爆発的に繁殖したものだと推測していましたが……。首の骨が折れて神経が死んでいる死体や、一度切断された肉体が繋がって機能するとなると、もはやそれは通常のウイルスの範疇ではありませんね。もっと何か、根本的に別の……」
冬子はしばらくパソコンの画面を睨みながら考え込んでいたが、現在の限られた情報だけでは、それ以上の明確な答えを導き出す事はできなかったようだ。
僕は話題を切り替え、2人が見ていたパソコンに視線を向けた。
「ところで、君たちも熱心に話し合っていたようだけど、何か進展でもあったのかい?」
「ええ。このマンションのセキュリティを上げるために、備え付けられている防犯カメラを何とか再稼働出来ないかと思って冬子さんと話していたのよ」
彩香が画面を指差す。操作を引き継いだ冬子が説明を補足した。
「システム自体は生きているので、すぐにでも稼働する事は可能なんですが、問題があります。このマンションの配線の構造上、分電盤から電気を供給すると、各部屋の中や、外のホール、階段などのすべての照明が一斉に点灯してしまうのです」
「なるほど……そうだったね」
僕は腕を組んだ。
「この暗闇の世界で、自家発電が稼働して煌々と明かりがついていると周囲に知れば、それだけで凶悪な略奪者たちを呼び寄せる絶好の標的になってしまう。セキュリティを上げようとして、逆に自分たちを危険に晒してしまっては全く意味が無いからね」
「ええ、本当にそうなってしまいますね」
冬子も悔しそうにため息をつく。
しばらくの間、僕たち3人は無言のまま、どうすればいいか解決策を考えていた。やがて、彩香が静かに自身の考えを話し出した。
「防犯カメラ以外の余計な電源を完全にシャットダウンするには、まずこのマンション全体の配線と、すべての電源の配置を完璧に把握する必要があると思うの。そしてその前提として……まずは全てのフロアが今どういう状態になっているかを、私たちの目で把握する必要があるわね」
「彩香さんのおっしゃる通りです」
冬子がキーボードを叩き、マンションの構造図を表示させた。
「現在、私たちが内部を確認できているのは、一階のコンビニ、三階と四階の一部の部屋、そして私たちがいる六階と七階だけです。正確に言うと、201号室〜206号室、303号室〜306号室、403号室〜406号室、そして501号室、502号室の、合わせて16部屋の状況がまだ全く確認されていません」
「それらの部屋に、他の生存者はいるのかな?」
僕が尋ねると、彩香が首を振った。
「それは分からないわ。だけど、これだけの日数が経っている以上、生存者がいる可能性としては極めて低いでしょうね。……私の今の考えでは、上層階である五階、六階、七階を私達の完全な居住・安全区域として使用して、あえて下の二階や三階は、ゾンビがそのままさ迷う状況にしておきたいの」
「なるほど」
僕は彩香の意図を察した。
「外からの侵入者は、当然に下から階段やエレベーターを使って登ってくる。二階や三階にゾンビを配置しておけば、それがそのまま、外敵に対する天然の防壁として効果的に機能するわけか」
「ええ、その形が最も効果的よ。だから――」
「それなら、まずは今日、五階の探索を僕がしてみるよ」
安全地帯を広げるため、僕は即座に提案した。
「マサキさん……いつも危険な事ばかりしていただいて、本当に感謝していますわ」
彩香が申し訳なさそうに、しかし信頼の込めた目で僕を見つめる。
「仕方ないよ。この中で男は僕だけだし、何より、このハーレムのような状況を望んだのも僕自身だからね」
僕は笑って彩香の肩を叩き、それから思い出したようにもう一つの件を伝えた。
「それと、さっきの憩いの里で、大場という若い男の職員が、僕たちの物資の調達に同行したいと言ってきてね。戦力にはなりそうなんだが、どう思う?」
「そうね……。彼を、私たちの拠点であるこのマンションに連れてくるようなことが無ければ、外での協力者として割り切る分には問題ないわね」
彩香は冷徹にリスクを管理する判断を下した。
「ああ、僕も全く同じように考えている。あくまで外での頭数として利用させてもらうさ」
僕は頷き、五階の探索に向けて、コンビニから持ってきたモップを手に取り、武器の準備を始めた。




