信彦と冬子
僕と冬子が2人きりになると、冬子は僕の前に立ち、深く頭を下げた。
「改めて言わせてください。マサキさん、助けてくださってありがとうございます」
「礼はいいよ。それよりも……コレを飲んでおきなさい」
僕は冷蔵庫からあらかじめ用意しておいたアフターピルの錠剤を取り出し、水と一緒に冬子に差し出した。
それを見た瞬間、冬子の目から一気に涙があふれ出した。
「うっ、うう……うあああん……っ!」
張り詰めていた糸が切れたように、冬子は僕の胸に飛び込んで声を上げて泣いた。その華奢な身体を強く抱きしめ、背中を優しくさすった。
「怖かったよね。すぐに助けに行けなくてごめんね……」
「怖かったです……っ」
冬子は僕の胸に顔を埋めたまま、涙ぐみながら、あの部屋で自身の身に起きた恐怖の出来事をぽつりぽつりと話し始めてくれた。
「初めは、楽しく話していたんです。だけど、雪が出ていって2人きりになったら、急にあの男の鼻息が荒くなってきて……。私は不味いと思って、コスプレ衣裳を借りてすぐに帰ろうとしたんです。そしたら、ガシッと腕を掴まれて……『撮影したいからコスプレしてほしい』って、何度も何度も頼まれて……。だけど私は気味が悪くて断りました。そうこうしているうちに、あの母親が部屋に来たんです……」
冬子は僕の腕の中で涙を拭いながら、さらに言葉を続けた。
「部屋に来た母親は、あの男を諌めるどころか、私にこう言ったのです……」
『冬子さん、申し訳ないけれど着替えてあげて。撮影さえ出来れば信彦さんは満足するわ。ねえ、信彦さん?』
『もちろんだよ! 僕は冬子さんのリリスのコスプレを記念に残したいだけなんだよ。それが済めば無事に帰すと約束するよ』
『冬子さん、信彦さんは必ず約束を守る人です。それに私も居りますし、何も間違いは起きませんよ』
母親のその言葉を信じてしまったこと。そして何より、信彦が話している間も冬子の腕をガッチリと掴んで離さず、細く華奢な体つきの冬子にはそれを振りほどくのは難しいと直感したため、彼女は恐怖を押し殺してコスプレすることを受け入れたのだという。
最初のうちは、露出の多い衣装に対する恥ずかしさはあったものの、撮られること自体をどこか楽しむ余裕もあったそうだ。しかし、撮影が進むにつれて信彦が要求するポーズは露骨に性的なものを連想させるものへとエスカレートしていき、冬子も抵抗を感じながらも、その場を穏便に済ませるために仕方なく受け入れていた。
だが、次の要求を聞いた瞬間、冬子は明確に拒否することを決意した。
『冬子たんのコスプレ最高、リアルにリリスみたいだ。最後にこのポーズをしてよ。縄も有るんだよ、僕も手伝うから』
信彦は『モラハル堂の裏リリス』という成人向け同人誌を開いて見せてきた。そこには、ヒロインのリリスが勇者に縄で緊縛され、陵辱される過激なシーンが描かれていた。
『嫌です、それは出来ません』
『何だよ、冬子たんも裏リリスが好きって言ってたじゃないか! ならこのシーンの重要性がわかるよね? わからないの? ……ニワカめ』
『フン、そのシーンが重要なのは承知しているわ。だけど、なぜ、あなたに見せなければならないの? 帰ってマサキさんに見て貰うわ。それでは帰らせていただきます。――お母様、帰りたいので来ていただけませんか~』
信彦のただならぬ、ねっとりとした狂気の雰囲気を察した冬子は、大声で母親を呼んだ。幸いにも、母親はすぐに部屋に現れてくれた。
『お母様、おもてなしありがとうございました。撮影も終わりましたので私は帰らせていただきます』
『まだ終わってない!』
『冬子さん、信彦さんはまだ満足されてない様子よ。もう少し付き合って差し上げて』
『嫌です! 私は帰ります』
母親のあまりに異常な態度に強い憤りを感じた冬子は、少し強めの口調で帰宅を主張し、出口に向かって歩き出した。
『終わって無いって言ってるだろ!』
その瞬間、太っている体型からは想像もつかない俊敏な動きで、信彦が冬子にタックルを見舞い、彼女をベッドの上に押し倒した。
華奢な身体で力のない冬子には、太って肉厚のある信彦の巨体をはね除けることなどできない。堪らず、彼女はそばにいる母親に助けを求めて叫んだ。
『お母様、助けてください!』
『あなたね、そんな露出の多い服装で信彦さんを誘惑しておいて何を言っているの? 安心しなさい、信彦さんはお上手よ。遙香も最初は嫌がっていたけれど、最近は大人しく抱かれているわ』
『なっ……貴方達、狂っています……!』
『ママ、縛るからそこを押さえててよ!』
冬子は2人がかりで容赦なくベッドに押さえつけられ、完全に拘束されてしまった。
自由を奪われた冬子の前で、信彦はレオタード風の衣装の胸と股の部分をハサミで容赦なく切り裂き、彼女の乳房と性器を剥き出しにしてカメラのシャッターを切り続けた。
『冬子たんのオッパイとおマンコはピンクで綺麗だね。ゆっくり愛撫してあげる』
『触らないで、デブは嫌いなのです。それに貴方、とっても油臭いです』
『ああ、その悪態はリリスに成りきってくれてるんだね。ああ、ダメだ、君の綺麗な身体を見ていたら入れたくなってきた……』
『イヤ、痛い! ヤメてよ! 濡れてもいないのに入れないで!』
『グフフ、ごめんごめん。準備するよ』
冬子は準備という言葉を聞いて、前戯として愛撫をして濡らすつもりなのだろうと思った。
(フン、あなたにどれだけ触れられても、私は絶対に濡れませんから)
絶対に感じない、こんなブタみたいな男で感じるはずがない――冬子は心の中でそう強く呪詛を唱えていた。
しかし、冬子の予測とは裏腹に、信彦は棚の上から古びた段ボール箱を下ろし、その中身をベッドの脇にぶちまけた。そこに入っていたのは、エロ同人誌の調教シーンでしか見たことのないような、禍々しい大人のおもちゃの数々だった。
『グフフ、まずはフェラチオをして貰おうかな』
『そんな事を私がする訳がないわ、いい加減にして!』
『ブッバッハ、冬子たんはツンデレだから、今はツンツンしてるけど僕のを舐めたら、デレッっとするよ多分。さあ、これを着けてあげるね』
『イヤ、口に変な物を着け――フゴォ、ファメテ、フゴッ……!』
冬子は抵抗の甲斐なく、無理やり口を大きく開けさせる革製の口枷を装着されてしまった。
『さあ、おチンチンを冬子ちゃんの可愛いおクチに差し込むよ。あああっ、おう、生暖かくて気持ちいいよ……』
両手を縄で繋がれてベッドのパイプに固定され、指一本動かせない冬子。信彦はその太った巨体で冬子に跨ると、閉じることのできない彼女の口内へと、容赦なく自身の肉棒を挿入していった。
喉の奥を力任せに突かれ、冬子は息ができなくなって激しく咳き込みそうになるが、信彦はお構いなしに激しく腰を前後させ続ける。苦しさのあまり、何とか逃れようと冬子が首を振ったり、舌で肉棒を押し出そうと抵抗したりした行為は、皮肉にも信彦をより一層喜ばせる結果となってしまった。
『冬子たん、嬉しいよ、舌を絡めてくれるなんて! あああ、出そうだ、あっ、出る、出るから飲んで!』
喉の最奥に熱くドロリとした精液が大量に吐き出され、冬子は拒絶することもできず、反射的にそれをゴクンと呑み込んでしまった。
(気持ちが悪い……こんな醜い男の精子を飲まされるなんて……)
絶望が襲う。しかし、信彦は口で果てた。男ならこれで一度「賢者タイム」が来るはずだ、何とかこの隙にこの苦痛から逃れなければ、と冬子は必死に思考を巡らせた。
『ああ、最高だ。冬子たんの身体に僕の精子が入ったなんて、なんて幸福なんだ。よし、もう一回して貰おう』
『うだうめ……うあむえうえ……っ!』
冬子は涙目で必死に首を振り、拒絶の意志を伝えたが、拘束された彼女に決定権など最初から存在しなかった。
『うおおお、すぐに復活してきた! ほら、もっと奥に入れるよ。鍛えれば女も喉で気持ちよくなるって漫画に書いてあるから、頑張って!』
再び口の中に苦くて、しょっぱくて、生臭い最悪の味が広がる。気持ち悪さ以上に喉が物理的に塞がれ、呼吸を何度も止められる恐怖。信彦は絶頂の最中にあるのか、喉の奥に肉棒を突っ込んだまま、グリグリと残虐に腰を動かした。冬子は涙を流しながら耐えていたが、酸素が欠乏し、徐々に頭の中が真っ白になっていって、そのまま意識を失った……。
パン、パン、パン、パン――。
肉と肉が激しくぶつかり合う、卑猥な音で徐々に意識が覚醒していく。下半身の内部を容赦なく掻き回されるような、どろりとした甘い感覚が腰の神経を強烈に痺れさせていた。
身体全体を圧迫する重みと、脂ぎった匂い、唇をぬるぬると舐め回される不快感。
(ああ……私は、犯されているんだ……)
冬子は絶望し、このまま気絶したフリをしてやり過ごそうと考えた。しかし――。
ブブブブブブ
という機械音と共に下半身に甘い快感が走る。
『んっ、ああっ、あっ……ヤメ、ヤメて! それ、おかしくなるの……っ!』
クリトリスへの局所的で強烈な機械の刺激に耐えかね、冬子は思わず悲鳴のような声を上げてしまった。
『冬子たん、覚醒したんだ! グフフ、バイブでクリトリスを責められると感じるんだね、もっとしてあげるよ!』
『イヤ、イヤなの……それは、マサキさんにもされたこと無いからダメ…………あっ、あああ、イクッ……!!』
『ガハハハ! やった、やった、冬子たんをイカせたぞ! これで僕の嫁だ!!』
冬子は、一度その肉体の快感のスイッチを押されてしまうと、頭での拒絶とは裏腹に身体の歯止めが効かなくなってしまった。
信彦が動くのを止めると、自ら腰を動かし強い刺激を求めてしまっていた。
信彦は勝利を確信したように中で何度も射精を繰り返したが、冬子の肉体はそのすべてを受け入れその度にイッてしまっていた。それを見て信彦は冬子が完全に調教され、自分に堕ちたと思い込み、完全に舞い上がってしまっていたのだという。
「その後も……救出されるまで、様々な道具を使って執拗に責め立てられました」
一気にそこまで話し終えると、冬子は燃え尽きたように僕の胸にぐったりと体重を預けた。
僕は彼女の言葉に激しい憤りと胸が引き裂かれるような痛みを覚えながらも、静かに問いかけた。
「そうか……。それで、君は信彦のセックスに依存するのを、精神的に踏みとどまれたのか?」
「もちろんです。だから、あいつを心の底から憎み、殺せました」
冬子は僕の胸から顔を上げ、きっぱりと言い放った。
「昨夜、マサキさんが私を最高に気持ちよくして、愛で失神させてくれましたよね。アレに比べたら、あのデブの独りよがりの行為なんて大した事は無かったんです。それに、何よりやっぱり、あの男は生理的にムリですから」
「冬子……」
僕は彼女の強い瞳を見て、愛おしさと、二度とこんな目に遭わせてはならないという強い決意を胸に抱いた。
「君を失いたくないんだ。だから、もう二度とあんな危険な真似はやめてくれ」
「はい……。それと、少し怖いんですけど、今のうちに聞いておきますね」
冬子は上目遣いで、僕の顔色を窺うように言った。
「マサキさんは……私のように、他の男に無理やり抱かれた女は嫌いですか?」
「好ましくはないよ。出来れば誰にも抱かれてなんてほしくない」
僕は正直な気持ちを伝えた。
「だけど、それで君を嫌いになったりなんて絶対にしないよ。君が被害者なのは分かっているし、僕の冬子に対する気持ちは微塵も変わらない」
「良かった~……!」
冬子は心底安心したように破顔すると、僕の首に腕を絡めて激しくキスをしてきた。僕も彼女のすべてを受け入れるように、その身体を強く抱き締めて応えた。
しばらく唇を重ね合わせた後、冬子は少し悪戯っぽい、妖艶な笑みを浮かべて僕の耳元で囁いた。
「あの……それと、マサキさん。……部屋に突入してきた時、拘束されてバイブを射し込まれている私を見て、……実は勃起してましたよね? 私、それを見てとっても嬉しかったんです」
見られていたのか。僕は一瞬言葉に詰まったが、この異質な世界で彼女に嘘を隠すのはやめようと思い、真っ直ぐに彼女の目を見て答えた。
「……正直に言うよ。あの姿を見た瞬間、胸が締め付けられるような激しい怒りと痛みを感じたんだけど……同時に、信じられないくらい凄く興奮もしていたんだ」
冬子はトロンとした瞳で嬉しそうに微笑み、僕の胸を指でつついた。
「それって、――NTRですね」




