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狂った家庭

「……ねぇ、遙香ちゃん。ちょっと立ち入った話を聞くんだけどさ」

 

僕はソファの対面に座る遙香ちゃんをじっと見つめた。

 

「君の家には今、お母さんと、お兄さんの信彦くんの二人しかいないんだよね?」


「は、はい……」

遙香ちゃんは膝の上で両手をギュッと握りしめ、頑なに俯いたままだ。


「昨日、君のお母さんが玄関先で君に向かって怒鳴っていたよね。『今日もこれから、あなたには大切な“お勤め”を果たして貰わなければならない』って。……あの“お勤め”って、具体的に何をさせられているんだい?」


ガチャン!!!


僕の問いかけを聞いた瞬間、遙香ちゃんの手が激しく震え、持っていたガラスのカップがテーブルの上に落ちて大きな音を立てて割れた。


「遙香ちゃん……? 君、何かに怯えているね、家で酷いことをさせられているんじゃないのか? 良ければ相談にのるよ」


「それは……っ。そんなことは……っ、ううぅ……っ」

遙香ちゃんは顔を覆い、今にも泣き出しそうに肩を震わせ始めた。


「マサキさん、ちょっと急にそんなこと聞いたら、遙香ちゃんが可哀想だよ! 嫌がっているんだから、その話はもう止めようよ!」

親友を庇うように、雪乃が僕の前に立ちはだかる。


「いや、ダメだ。何かが絶対におかしい。よく考えてみろ、遙香ちゃんの家は、今あの母親と、引きこもりの信彦の三人しかいないんだ。その母親が、実の娘である君にお勤めと称して何かを強要しているということは、その行為の対象相手は……間違いなく、兄である信彦くんだよね?」


「あああ……っ!! いやああああっ!!」

僕の確信に満ちた言葉に、遙香ちゃんはついに精神の限界を迎えたように悲鳴を上げた。


「君は、あの部屋で信彦に一体何をさせられているんだ? 隠さずに教えてくれ、何をされているんだ!?」


「イヤッ! 言いたくない! 誰にも言いたくないよぉっ! ……だって、だって、実の兄弟なのに……っ!!」


「遙香ちゃん、それ……もうほとんど自分で言っちゃってるよ……」

キッチンの手を止め、深刻な顔で僕たちの会話を静かに聞いていた彩香が、そっと会話に入ってきた。


「遙香ちゃん、あなた……もしかして、世界が崩壊する前から、お母さんにそんな悍ましい行為を強要されていたの?」


「うわああああんっ!! 私は、私は、本当は毎日、あの部屋にいるのが嫌で嫌で、ずっと死にたいと思っていました……っ! お母さんは、あの震災の時から頭がおかしくなっちゃって、このゾンビ騒動でさらに完全に狂っちゃったんです……っ! 『人類が滅びるかもしれないから、優秀な向井家の血筋の子孫を残すために、お前が信彦さんの子を孕みなさい』って言われて……私はお兄ちゃんに……毎日、毎日ずっと……っ!! ……でも、昨日から、お兄ちゃんは好みの冬子さんに目を付け始めて……っ!!」


「……冬子が危ない!!」


冬子のオタクだから何も出来ない、という甘い見立ては、完全に間違っていた。あの部屋の人間は、兄弟で子を生そうと考える倫理もモラルも完全に崩壊した、正真正銘の狂人達だったのだ。

僕たちは急いで階段を駆け下りて六階の向井の部屋の前へと向かい、鉄扉のドアを壊れんばかりの勢いで激しく叩きつけた。


「――どうされたのですか?」

ドアを叩き続けると、しばらくして中から母親の、酷く落ち着き払った声が返ってきた。


「冬子がここに来ているはずです。彼女を今すぐ出してください。取り敢えずドアを開けて彼女と話をさせてくれませんか」

僕が強い口調で詰め寄るが、内鍵が外れる気配は一切ない。


「遙香ちゃんが中に入りたいと言っています。開けていただけませんか?」


後ろから彩香が問いかけるが


「実は、冬子さんが、今夜はこちらにお泊まりになりたい、と仰いましてね。代わりに、そちらで遙香を泊めてあげてくださいな。そういうことですから、もうお引き取りに――」


その言葉を聞いた瞬間、僕たちの脳裏に最悪の確信が走った。間違いなく、冬子は中で危険に晒されている。


「お姉ちゃんがそんなことを言うわけない! 開けなさいよ!」

雪乃が悲痛な声を上げる。すると、隣にいた遙香ちゃんがポロポロと涙を流しながら崩れ落ちた。


「ゆきのん、ごめんなさい……っ。私のせいなの……お母さんに、お前をお兄ちゃんから完全に解放してあげるから、代わりにあの冬子っていう女をここに連れて来いって言われて……っ」


「向井さん、ドアを開けてください」

僕は怒りを押し殺し、ドアの向こうの狂女へ最後通牒を突きつけた。

「開けていただけないなら、僕たちは強い手段を選択することになります。後悔することになりますよ」


「まぁ、あなた、わたくしを脅しているの? 若造のくせに偉そうに……。そうね、もしあなたがあのマンションから出ていくと約束するなら、ドアを開けてあげてもいいわ。そして、うちの優秀な信彦さんが新しいリーダーになれば、すべてが上手くいくのよ」


あまりの荒唐無稽な要求に、僕たちは唖然とした。騒動を聞きつけて自室から出てきていたお隣の若宮千里さんも、信じられないものを見る目で首を振っている。


「お母さん、いい加減にバカなことを言うのはヤメて! お兄ちゃんがリーダーなんて出来る訳が無いじゃない!」

遙香ちゃんが叫ぶが、母親の声はどこまでも冷酷だった。


「遙香、あなたはもう帰って来なくていいわ。信彦さんの高貴な子供を身籠って貰うつもりでしたけど、もう必要は無くなったから。ここにいる冬子さんの方が、お綺麗でよっぽどいい身体をしていますもの」


「向井さん、あと一分だけ待ちます。考え直してください」


「アハハハ、いつまでも待っていればいいわ! うちには万全の備蓄がたくさん有るのよ。次にこのドアを開ける時には、冬子さんのお腹が大きくなった時かしらね!」


――言うだけ無駄だ。僕は最初から分かっていたが、遙香ちゃんの親友である雪乃の手前、一応の手順を踏んだだけだ。

僕は急いで七階の部屋に戻ると、リュックに武器となる頑丈な鉄パイプとナイフを詰め込んだ。そして寝室の引き出しから、生前に岡田が女性の部屋に忍び込むために悪用していたマンションのマスターキーを取り出し、再び六階へと駆け降りた。


ドアの前では遙香ちゃんが悲痛な声をあげていたが、すでに母親からの返答は無かった。恐らく、ドアの前から去って奥の部屋へ戻ったのだろう。


「奈穂、僕がマスターキーで解錠して突入したら、すぐに続いてくれ。――遙香ちゃん、信彦の部屋の位置はどこだ?」


「一番奥の部屋です……っ! 手前が私の部屋で、その真横になります!」


僕はドアの鍵穴にマスターキーを差し込んで回した。カチャリと、当然のように鍵が空く。しかし、ドアノブを回して引くと、数センチだけ開いたところでガツンと重い衝撃が走って止まった。内側からドアチェーンが掛けられている。

想定内だ。僕はドアの隙間に鉄パイプを差し込み、チェーンの下に引っ掛けるようにしてドアノブに斜めに固定すると、渾身の力でパイプを思い切り踏みつけた。

凄まじい金属音と共にチェーンの根元が引きちぎられ、鉄製のドアが勢いよく内側へと跳ね返った。


「あなた達、勝手に入って来ないでちょうだい!」

物音を聞きつけた母親が狂気を孕んだ目で立ちふさがるが、僕は一瞬の躊躇もなく、持っていた鉄パイプでその顔面を容赦なく殴りつけた。鈍い衝撃音と共に、母親はあっけなく床に転がって気絶した。


そのまま廊下を突き進み、一番奥にある信彦の部屋のノブを回すが、ガチガチに施錠されている。


「おい! 信彦! ここを開けろ!」

ドンドンと激しくドアを叩き、怒鳴り散らす。


「うるさい、出ていけ! フユたんと僕の神聖な時間を邪魔するな、この悪魔め!」

中から信彦の、興奮しきった異常な声が返ってきた。


「何を言っている! 冬子、無事か!?」

ドアに耳を当てるが、中からは冬子の声が一切聞こえない。話せる状況ではないのか……最悪の事態が頭をよぎる。


「僕とフユたんはたった今、結婚したんだ! 夫婦の邪魔をしないでほしい、出ていけ!」


ドアに思い切り蹴りを入れるが、ビクともしない。よく見ると、この部屋のドアだけは他の部屋と作りが違い、防音性の高い頑丈な特注品に変えられているようだった。平時から引きこもって大音量でアニメを観る信彦のために、家族がリフォームでもしたのだろう。これでは、力任せに破るのは時間がかかりすぎる。


「奈穂! ここでドアを激しく叩き続けて、中にいる信彦の注意を引きつけておいてくれ!」

「分かった!」

奈穂にその場を任せると、僕はすぐ隣にある遙香ちゃんの部屋へと飛び込んだ。


思った通り、部屋の間取りは対照の作りになっている。僕は遙香ちゃんの部屋のガラス戸を開け放ち、ベランダへと降り立った。そのまま忍び足で隣の信彦の部屋のベランダへと回り込み、レースのカーテン越しに中の様子を凝視した。


「――っ!!」


そこに広がっていたのは、言葉を失うほど凄まじい、悍ましい光景だった。

冬子は両手を頭の上でガチガチに縛られ、ベッドのフレームに完全に固定されていた。頭には悪魔の角のようなカチューシャを付けられ、全身は肉体を強調する黒いラバースーツのようなタイツに包まれている。しかし、その胸元は大きく引き裂かれるように開け放たれて豊かな乳房が露出しており、先端には鈴のついたクリップが容赦なく挟まれていた。

さらに下半身は、両足の膝を深く曲げられた状態で固定され、強制的にM字に開脚させられている。彼女のお尻の穴には悪魔の尾っぽを模したプラグが突き刺さり、ワレメの最奥には、奇怪な音を立てて激しく蠢くバイブが根元まで差し込まれていた。


冬子に、なんてことを……!!

※少し過激な性描写や表現もありますから、ミッドナイトノベルに移行中です


あちらは、ラブシーンに少しづつ挿絵もいれてます。

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