排除
ボコボコのメルセデスでマンションにたどり着くと夕暮れ時になっていた。
周りを警戒しながら七階へと戻ると、彩香と冬子が机で話し合っていた。
「マサキさん、奈穂ちゃん、本当にお疲れ様、お米は確保できたかしら」
「ああ、米はすべて彩香の立ててくれた作戦通りに上手くいったんだけど」
「どうしたの、何か不都合でも?」
彩香に米の回収が早く終わったので、ショッピングモールに物資の調達に向かい、休憩していた公園でXXXという半グレ集団に出会ったこと、そのあとに訪れたショッピングモールが酷い有様だったことを話した。
「あなたたちが無事で本当に良かったわ」
「マサキさんの判断が良かったからです。もしあの人たちに見つかったら絶対にひどい目に会わされていたと思う」
奈緒がフォローしてくれるが、そもそも僕が奈緒を襲わなければ危険な目に会うことも無かったから、すこし気まずかった。
「暴力的な物たちが各地で徒党を組んで人々を襲うことは予想していましたが、まさかこんなに早く、しかも私たちの身近で起き、遭遇するとはね……」
「もし彼らが、この街に居座るようなら外を出歩けなくなるかも知れませんね」
奴らとの遭遇は極力避けたい、そう考えると外出自体を減らす必要がある。そう考えると少しでもはやくこのマンションを要塞化する必要がある。
「このマンションに数か月でも籠城できるようにしないとならないな、一刻も早く」
「それなのだけど、あなたがいない間、冬子さんと話し合って、次の作戦を決めたの。私たちはこれから、このビルの六階までを完全な安全地帯にしようと思うのよ。カメラの映像を見る限り、六階の住人たちには今のところ野蛮な人間は落ち延びていないようだからね」
「六階までを安全地帯に……? 一体どうやってやるんだい?」
「このマンションはね、階層ごとに頑丈な防火扉が設置されているの。ちょうど六階から五階へと降りる非常階段の手前にも、壁に埋め込まれた格納式の防火扉があってね、それを完全に閉め切ってロックしてしまえば、下層フロアからのゾンビや略奪者の侵入を物理的に完全にシャットアウトできるわ。鍵のシステムに関しては、幸いにも岡田さんの部屋の工具箱にあったマスターキー一式の中に、適合するものが含まれていたのよ」
「なるほど、それならゾンビだけでなく他の暴漢が来ても簡単には上って来れないな。それに難しくはなさそうだね。僕と奈穂がいれば、もし踊り場に数体のゾンビが残っていたとしても、排除することなんて訳ないからね」
僕と奈穂は、再びゾンビの噛み付きを完全に防ぐ革の上下を着用し、ヘルメットのシールドを下ろして万全の用心をしながら、階段側の重厚な玄関口からホールへと躍り出た。
予想通り、七階のホールの周囲にはゾンビの姿は一切見えない。平時であっても、最上階のこのフロアに用もなく人が上がってくることはないため、知性のないゾンビがわざわざ長い階段を自力で登ってくるとは考えにくかった。
しかし、階段の隙間から一つ下の六階のホールを見下ろすと、そこには案の定、行き場を無くした2体のゾンビが、力なくウロウロと徘徊しているのが確認できた。
シッ、と奈穂と目配せをし、足音を殺して階段を駆け下りる。ゾンビがこちらの気配に気づいて振り返った絶妙なタイミングを見計らい、僕と奈穂は同時にその腐りかけた肉体へと強烈な体当たりを喰らわせた。
勢いよく突き飛ばされた2体のゾンビは、バランスを崩してそのまま五階へと続く階段の下へと転げ落ちていき、呆気なく視界から排除することに成功した。
ゾンビが這い上がってくる前に、すぐさま壁に嵌め込まれている鉄製の重厚な防火扉を引き出し、階段の入り口を完全に遮断するように設置する。
この扉は上下の天井と床にある強固な留め具にガチリと嵌め込む構造になっており、岡田のマスターキーを差し込んで回すと、内側から完璧に固定され、外側からはビクともしない鉄壁の障壁が完成した。これで五階以下からの脅威は完全にシャットアウトされたことになる。
「よし、これで六階と七階は、僕たちだけの安全な隔離空間になった。……それじゃあ約束通り、みんなでお菓子を持って、601号室の若宮さんと、602号室の向井さんのところへ、正式に挨拶へ行くことにしようか」
あえて自分たちの存在を隠して疑心暗鬼を生むよりも、こちらからオープンに接することで、彼女たちの警戒心を解き、この強固な防衛圏の仲間としてスムーズに引き入れたかったのだ。
僕たちは用意した高級なお菓子の詰め合わせを手に、新生コミュニティの拡大に向けて、まずは六階の住人たちの扉を叩くべく、静かに階段を降りていった。
※少し過激な性描写や表現もありますから、ミッドナイトノベルに移行中です




