楽園
七階に広がる贅を尽くした大空間を目にした瞬間、張り詰めていた女の子たちの表情が一気に華やいだ。
特に雪乃と奈穂のはしゃぎ方は凄まじく、まるで子供のように広いリビングを走り回っている。
「井上さん、お風呂にお湯が張れたわよ。浴槽が信じられないくらい大きいから、何人か同時にでも入れそう」
「彩香、まずは君が先に入ってきなよ」
そう提案すると、リビングにいた全員が同意するように頷いた。
「いいえ。まずはこの場所の主である井上さんが最初に入るべきよ。それが筋だわ」
「いや、僕は今のうちに一度コンビニに戻って、残っている物資を可能な限りこのエレベーターホールに運んでおきたい。いつ他の略奪者に目を付けられるか分からないからね。だから、彩香から入ってほしいんだ」
「……そうね。確かにあなたの言う通り、ここはまだ安全とは言えないものね。本当に、どこまでも冷静で頼りになるわ。感謝しているわ」
「あ、それならあたしも手伝うよ! まだ体力は有り余ってるから」
奈穂の頼もしい申し出を有難く受け入れ、僕たちは二人で再び一階へと降りた。コンビニのバックヤードに残された権堂の無惨な遺体には、あらかじめ僕が大きなシートを被せておき、奈穂の目に触れないよう細心の注意を払った。
以前に比べれば幾分か減っていたものの、ストックヤードの奥には手付かずの段ボール箱に入った物資が山のように残されていた。これなら、僕たち五人が数ヶ月は一切外に出ずとも問題なく暮らせるだけの量がある。
主食や缶詰だけでなく、ビールやウイスキーなどの酒類も余すことなくエレベーターホールへとピストン輸送した。残念ながら、アイスクリームなどの冷凍食品は電力が死んでいたためドロドロに溶けており、諦めるほかなかった。
一通りの搬出を終えた後、僕はあえてコンビニのシャッターを全開にし、すでに粉々になっていたガラス窓の周囲に古い雑誌を並べた。そこにジープから抜いたガソリンとライターのオイルを大量にぶちまけ、火を放った。
激しく燃え盛る炎が、店舗の前面を黒く包み込んでいく。外から見れば、四輪駆動の車が正面衝突してそのまま炎上した、文字通り「完全に略奪され尽くした廃店舗」にしか見えない偽装が完成した。
周囲の暗がりにゾンビや人間の気配がないかを慎重に見回してから、頑丈なドアで守られたエレベーターホールへと滑り込んだ。
ここへの侵入経路は限られているため外敵が力尽くで入ってくる可能性は低いが、外に出る瞬間に待ち伏せをされると厄介だ。後日、敷地内に放置されている廃車などを動かして、入り口を遮蔽する目隠しを作る必要があるかもしれない。
エレベーターで七階へと上がると、すでに冬子と彩香が手際よく夕食の準備を進めていた。室内には、香ばしいニンニクとトマトソースの良い香りが漂っている。
「お疲れ様です、井上さん。今、急いで夕食を作っていますから、先に温かいお風呂で汗を流してきてくださいな」
「奈穂、手伝ってくれてありがとう。君が先にお風呂に入ってきてくれ。――彩香、すまないが、少し寝室に来てくれないか?」
「ええ、分かったわ」
二人はそれぞれ気持ちのいい返事を返し、奈穂は脱衣所へ、彩香は僕の後に続いて寝室へと向かった。
「どうしたの? そんなに深刻な顔をして。……私、何かあなたの気に触るようなことでもしてしまったかしら?」
「そうじゃないんだ。彩香、これが何か分かるか?」
僕は寝室に備え付けられていた小型冷蔵庫の扉を開け、中に保管されていた見慣れない錠剤のシートを取り出して彼女に見せた。
「……あぁ、これは『アフターピル(緊急避妊薬)』ね。性行為の後でも、一定時間内に服用すれば高い確率で避妊の効果が得られるお薬よ」
「やっぱりそうだったんだね。……これを、今すぐ飲んでおきなよ。今日、君はバックヤードで、あの権堂に……」
「……。ふふ、そこまで私のことを気遣ってくれていたのね、ありがとう。喜んで頂くわ。――あの化け物のような男の子供なんて、万が一にでも身籠ったら、私は自分の手でお腹を切り裂いて死にたくなるもの」
「分かった。じゃあ、お風呂に入ってくるよ」
彩香の細い腰を引き寄せ、その唇に軽くキスを交わしてから、僕は大理石作りの広大な浴室へと向かった。
脱衣所に入ると、ちょうど先に入っていた奈穂がバスタオル一枚の姿で髪を乾かしているところだった。
「あ、お先です! すっごく大きいお風呂で、本当にびっくりしちゃいました」
「奈穂、今日は本当に君の臨機応変な動きに助けられたよ。これからもよろしくね」
「ふふ、あたしのほうこそ、井上さんにここまで連れてきてもらえて本当に良かったって思ってるよ。これからも頼りにしてください」
引き締まった奈穂の身体を抱き寄せ、彼女とも深いキスを交わしてから、僕は浴槽へと足を踏み入れた。
服を脱ぎ捨てて鏡に映った自分の肉体を見ると、権藤から受けた無数の打撃による青アザや、激しい擦り傷が至る所に刻まれていた。
(よくもまあ、あんな怪物相手に生き残れたものだ……)
浴槽は、大人が足を限界まで伸ばして寝転がっても、向こう側の壁に爪先すら届かないほど広大だった。至福の湯に身を委ね、溜息を漏らす。
ガラリ、と小気味良い音を立てて浴室の扉が開いた。身体を隠しもせずに入ってきたのは、雪乃だった。
「あ、やだ! 井上さんが入ってるなんて、わたし全然知らなかったよぅ」
「なんだ、僕が入っているなら出ていくかい?」
「まさか! エヘヘ、もちろん一緒に入りますよ。……あ、見てみて、脱衣所でこの『お風呂用マット』を見つけたの。井上さんの身体、わたしが綺麗に洗ってあげるね」
彼女の可愛らしいお言葉に甘え、僕はマットの上にうつ伏せに寝転がった。雪乃は慣れない手つきでスポンジを揉み込み、きめの細かい豊かな泡を作ると、僕の背中を優しく撫でるように洗い始めた。
破裂しそうだった肉体の疲労が湯気と共に溶け出していく。まさに天国、夢心地の気分に包まれ、そのまま意識を失って眠りそうになった。
「はーい、今度は前を洗いますから、上を向いてくださいな」
「おや、もしかして『泡踊り』でもしてくれるのかな?」
「あわおどり……? 徳島県の、あの『踊る阿呆に見る阿呆』っていうお祭りですか?」
「あはは、ごめんごめん。雪乃はまだ現役の女子高生だもんな。そんな大人の世界の艶っぽいサービス、知るわけないよな」
「むっ! わたしだって、もう立派な大人ですよ! 意地悪言わないで、教えてくれれば何だってやります! ……あっ、そっか、そういうことね。ちょっと見ててくださいね」
雪乃は何かを閃いたように顔を輝かせると、スポンジの泡を自分の豊かな胸や太ももにたっぷりと纏わせていった。
(ほう、教えなくても直感で理解したのか、大したものだな)と感心したのも束の間、彼女の行動は僕の予想を遥かに斜め上へと超えていった。
雪乃はマットの上にすっくと立ち上がると、両手を高く掲げ、まるで本場のカーニバルのサンバガールのようにお尻を激しく振って踊り始めたのだ。
「プッ……ッハハハハハ!!!」
「ええっ!? 違いました!? 笑いすぎだよぅ!」
「ごめん、ごめん! だけど最高に惜しいし、最高に可愛いよ。……本物の『泡踊り』っていうのはね、そうやって自分の身体に纏わせた泡を使って、君の柔らかい肉体そのものをスポンジにして僕の肌を滑らせるように洗うんだよ」
「えっ……! ほん、本当に……? ふーん、そんなエッチな洗い方があるんだ。……もちろん、井上さんがしてほしいなら、喜んでやっちゃいますよ」
雪乃は僕の身体を跨ぐようにして上に乗ると、まだ少女の張りを残した豊かな双丘を、僕の胸板へと容赦なく擦りつけながら滑らせ始めた。
「はあん……っ、これ、思った以上にすっごくヤバいです……っ」
「さらに、その細い腕を僕の股の間に滑り込ませて、挟み込むようにして洗ったりするんだよ」
「や、やってみます……。でも、これ、ちょっと恥ずかしいかも……」
雪乃は僕が教える歪んだ快楽の教本の通りに、自身の太ももや胸に泡を補充しながら、僕の敏感な場所を優しく、執拗に包み込んで洗ってくれた。至上の幸福感が、浴室の熱気と共に満ちていく。
「あの……井上さんのここ、さっきからすっごく大きくなって、ガチガチになってますよ? これ、早く出してあげないとダメ、ですよね……?」
「雪乃、一度その浴槽のフチに座ってごらん」
「……はい」
雪乃は上気した顔で、僕の目をチラチラと上目遣いで盗み見ながら、湯船の縁にその白い腰を掛けた。
「そのまま、ゆっくり足を開いて、僕に見せてよ」
彼女は羞恥に頬を染めながら、ゆっくりと左右の膝を広げていった。その完全に無防備に晒された秘割からは、すでに洗い物の刺激だけで溢れ出た愛液が、お湯に濡れて妖しく光り輝いていた。
「すっかり濡れているじゃないか。僕の身体を洗いながら、自分でも感じていたんだろう?」
「だって……井上さんが、そんな敏感なところばっかり使って洗わせるから……っ」
「舐めてあげようか?」
「はあん……っ、はぁ、はぁ、お願いします……っ。あっ、あん……っ! すっごく気持ちいい……っ!」
「本当に雪乃はスケベな女の子だな。あんなハゲ店長に無理やりされている時だって、本当は感じていたんじゃないのか?」
「そんなこと、絶対にないもん……っ! わたし、マサキくんのモノじゃなきゃ、絶対に感じない体になっちゃってるんだもん……っ!」
「みんながリビングで待ってるから、もう中に入れるよ」
「はい……っ、おねがい、します……っ!」
潤い切ったワレメの奥へと、僕の猛り狂う肉棒をズプリと一気に根元まで差し込んだ。
それだけの刺激で、雪乃は頭を後ろへと仰け反らせ、身体を激しく震わせて一瞬で達してしまった。彼女の肉付きの良い腰を両手でしっかりと固定し、浅く、深く、容赦のないピストンを繰り返した。幾度となく膣壁を痙攣させ、潮を吹き上げる雪乃。ガチガチと音を立てるように腰を打ち付け、僕の側も限界が訪れたため、肉棒を引き抜いて彼女の顔面へと突き出した。
雪乃は小さな口を大きく開け、僕の先端から勢いよく噴き出した大量の白濁液を余すことなく受け止めると、喉を鳴らしてゴクンと飲み干した。
「……もう、本当はお腹の中にいっぱい出してほしかったのに……」
「ダメだよ。こんな秩序の崩壊した世界で、もし妊娠でもしたらそれこそ大変なことになるからね」
「ケチ」
何がケチなのかは男の僕には今ひとつ理解できなかったが、彼女の表情から、僕に対する愛情は痛いほどに伝わってきた。
お風呂から上がってリビングに戻ると、濡れた髪の雪乃を見て、すでに服を着替えていた冬子が般若のような顔で怒っていた。
「雪!! やっぱり、あなたまたマサキさんとお風呂でエッチなことしてたでしょう! 本当に一瞬も油断できないんだから! すぐにマサキくんを独り占めしようとするんだから!」
「してないもん! わたしはただ、井上さんの汚れた背中を綺麗に流してあげていただけだもん!」
「本当に!? 本当の本当の、本当に!?」
「……本当は、奥までぜんぶ入れちゃいました。テヘッ♪」
「もおおぉぉ! あなたって子は、本当にいぃぃ!!」
僕と彩香、そして奈穂は、微笑ましい姉妹の定番のキャットファイトを、グラスを片手に微笑ましく眺めていた。
しばらくして、場が落ち着いたところで彩香が居住まいを正し、全員に向けて真剣なトーンで話し始めた。
「もうすぐ完全に日が暮れるけれど、この最上階に関しては、夜間の『電気照明の点灯』を一切禁止にします。理由は明白ね。ここにこれだけの人間が生き残って生活していることを、外の人間たちに絶対に知られたくないからよ」
「私も大賛成です。ここは一階のセキュリティが強固だから簡単には侵入されないだろうけど、もし生存者がいると知られたら、武器を持った集団に包囲されて必ず襲撃されます。ましてや、ここにはこれだけの美女が4人も揃っているんだし?」
「お姉ちゃん、ちゃっかり自分のこともその『美女4人』の中にカウントしてるね。……まぁ、確かに美人なのは認めざるを得ないけどさ」
「それから、夜間はすべての窓の『遮光カーテン』を完全に閉め切ること。暗闇の街からこのビルを見上げて、監視している人間は必ずいるはずだから」
リビングの重厚なガラステーブルの上には、冬子と彩香が作った豪華な料理が並べられていた。アルデンテに茹で上がったトマトパスタ、新鮮なストック野菜のサラダ、香ばしく焼かれたチキンステーキ、濃厚なホワイトシチュー。そして、コンビニから救出してきた高級な赤ワイン。
「井上さん、宴を始める前に、一言リーダーとしてお願いしますな」
彩香に促され、僕はグラスを持ち上げて全員の顔を見渡した。
「……ここまで辿り着くのは、僕が当初考えていたよりも、ずっと過酷で、血生臭い道のりだった。僕が力不足で不甲斐なかったせいで、何度も君たちを危険な目に晒し、心も身体も傷つけてしまって、本当にすまなかったと思っている。だけど……僕はこれから何があっても、命に代えても、ここにいる君たち全員を必ず守り抜く。だから、僕に付いてきてほしい」
「もちろんよ。私はどこまでも、あなたに付いていくわ」
「わたしもー! ずっと一緒だよ!」
「あたしも、井上さんの足手まといにならないように全力で頑張る!」
「わたしも、どこまでも付いていくよ。マサキさんと一緒なら、地獄の底まで落ちたって一向に構わない」
「「……マサキさん?」」
冬子の口から出た親密な呼び方に、彩香と雪乃が敏感に反応して目を細めた。
「ふーん……いいわね、その響き。じゃあ、私もこれからは、あなたのことを『マサキさん』と呼ばせていただくわね」
「あ、ずるい! わたしもこれからはマサキさんって呼ぶ!」
「あはは、じゃあ、あたしもそう呼んじゃおうかな?」
それからは、ディナーを全員で楽しみながら、改めてお互いの詳細な自己紹介やこれまでの昔話に花を咲かせた。
雪乃や奈穂は、大人の魅力と高い知性を持つ彩香に対して強い憧れを抱いていたようで、こうして同じ空間で生活できることを心底喜んでいた。また、冬子は彩香と非常に話の波長が合うようで、どちらも頭脳明晰なタイプゆえか、多くを語らずとも少ない言葉でお互いの意図を理解し合っているように見えた。
一方で、雪乃と奈穂の年少組は、いかにも女の子らしい世間話で大いに盛り上がっていた。
「ねぇねぇ、奈穂ちゃんって、普段ネイルとかってしたりする?」
「あたし、ずっと現役のアスリートだったから、大会の規則とか練習の邪魔になるから出来なくて……。でも、本当はすっごく興味あるんだよね」
「それなら、ウチにすっごく可愛いネイルセットのフルキットがあるから、明日使い方を教えてあげるよ!」
「本当に!? 嬉しい! 雪乃ちゃんの家なら、さっきあのジープを取りに一緒に行ったから、場所はバッチリわかるよ。明日の昼間にでも、ちょっと取ってこようかな」
「えーっと、あぁ……あの男たちの車を取りに行ったんだね。ねぇ、奈穂ちゃんは雪乃の家の中には入ったの?」
「ううん、あたしは外で待ってただけだよ。中に入ったのはマサキさんだけ」
「……あぁ、そうなんだ。たぶん、家の中は今ちょっとカオスなことになってるから、女の子は入らないほうがいい。……あ、それと、すっかり言うのが遅くなっちゃったけど、奈穂ちゃん、さっきは命がけで助けてくれて本当にありがとう。奈穂ちゃんが自転車で突っ込んできてくれなかったら、わたし本当にゾンビに食べられて死んでたよ」
「ううん、気にしなくていいよ……その代わり、雪乃ちゃん、あたしに色々教えてよ」
「ん? なにを?」
「マサキさんのことだよ。あたし、まだあの人のこと、何も知らないから……」
夜も更け、各自の部屋割りが決定した。
広い客間には雪乃と奈穂の二人が眠り、彩香と冬子は岡田の「仕事部屋」を寝室として使うことになった。仕事部屋も十分な広さがあり、布団を敷くスペースはあったものの、現状は五人分の布団が揃っていなかったため、今日のところは冬子だけが厚手の毛布を敷いて眠ることになった。
冬子は部屋に鎮座する岡田のハイエンドなパソコン設備や、電子基板の山に興味津々の様子で、未開封のパーツボックスを開けては「最新のグラフィックボードや高級なパーツが贅沢に使ってある!」と目を輝かせて喜んでいた。
「ねぇ、マサキくん。今度街に物資の調達に出るついでがあったら、わたしの家から、愛用のマイPCも一緒に運んできてほしいな」
「あぁ、分かった。近いうちに必ず持ってきてあげるよ」
そして今夜、僕の寝室で一緒に夜を過ごすのは、彩香だった。
僕も彩香も、今日の死闘と作業で心身ともに極限まで疲弊していたが、静まり返ったベッドの上で、互いの体温を確かめ合うように、ゆっくりと時間をかけて、一度だけ深く彼女を抱いた。
普段はプライドが高く、毅然とした態度を崩さない彼女が、暗闇の中ではまるで小さな子供のように僕の胸に顔を埋め、甘えてくる姿がたまらなく愛おしかった。
窓の外には、文明の灯りが完全に途絶え、ゾンビがうごめく漆黒の地獄が広がっている。
しかし、この七階の空間だけは、信じられないほど暖かく、幸福な夜に満たされていた。
(……何があっても、絶対にこの楽園を、この環境を、僕の手で守り抜いてみせる)
僕は愛しい女性の肩を抱き寄せながら、静かに、深い眠りへと落ちていった。
※少し過激な性描写や表現もありますから、ミッドナイトノベルに移行中です




