第87話
そう言った瞬間、目の前が真っ白になり、何も聞こえなくなった。
程なく、気づくと、二人の青年が話していた。
一方は、あのお方。
そのすぐ傍には、とても素敵なドレスに身を包んだ女性が横たわっていた。
心配したが、どうやら、眠っているだけらしい。
まるでお姫様のようだ。
「殿下、お手を煩わせてしまい、申し訳ございません」
「いや、さすがだ」
目を細めて、目の前の男を凝視するジークフリート。
「なるほど、よく見つけたな」
「いえ、歌姫様が向かわれた先に、たまたま全員勢ぞろいしておりまして」
「さすがに、これを予想していた訳ではなかったが、卿に来てもらってよかった」
「こちらに来たばかりで、知らぬ顔もおり、少々確認のため様子見をしておりましたら、歌姫様をご不快な目に合わせてしまいました」
「致し方あるまい。
謝罪は、歌姫殿に伝えれば良い。
お、ちょうど気が付いたようだぞ」
「歌姫様、大変申し訳ございません。
我は、殿下より、歌姫様の陰警護を仰せつかった、シャイデマンと申します」
「え、シャイデマン……、先程も、たしか……」
「申し訳ございません。
あれは、お恥ずかしながら、我が父でございます。
重ねてお詫び申し上げます」
「い、いえ、私は大丈夫ですので。
それよりも、お助け頂き、ありがとうございました」
「不手際をお許し頂き、なおかつ、謝礼まで。
本当に恐縮でございます」
「もう良い。相変わらずだな、卿は。
本当に、心から聖女様方を崇拝しているのだな」
「それは、もちろんでございます。そもそも……」
「もう良い!」
「フフフ……」
主従のやり取りが面白く、思わず笑ってしまったアイーシャ。
「みろ、笑われてしまったではないか。
ところで、歌姫殿。
ちょっと、こちらは少々騒がしくなりそうなんだ。
申し訳ないが、しばらく俺の別邸で待っていてもらえるかな。
ちょうど、そこにはアビーもいるので、退屈はしないと思うよ」
「良いのですか!
ぜひ……、失礼しました。殿下に対して……」
「いや、普通に話してくれると、うれしいのだが……」
「何を照れておいでなのです、殿下」
「お前と言い、イーゼンブルクといい……。
まあ、その方が良いのだが……。
それにしても、これから父を誅するというのに、お前、それで、よいのか?」
「ええ、ようやく、我が母をはじめとする聖女様方を、あのような目に合わせた外道どもを誅することができるのです。
むしろ、本懐を遂げられる喜びに打震えておりますよ」
「ならば、いいが……。
それで、どれくらい持ちこたえられる?」
「何時間でも、まったく問題ございません」
「さすがだな。まあ、すぐに戻る。しばし、待て」
「御意!
アビゲイル様にも、我は使命を果たしたとお伝えくださいませ!」
「お、お前は本当にブレないなぁ……」
そう言いながら、眠る女性を抱き上げるジークフリート。
「では、歌姫殿。
俺の近くに……、いや、それほど……、
いえ、何でも。少し目を瞑って」
気が付くと、そこは、どこかの邸宅の一室だった。
とても洗練された部屋であり、そこでは親友がピアノを演奏していた。




