第85話
「アイーシャ様、午後の公女殿下との面会は、急遽、先方の都合により、後日に延期となるとのことです」
ここは、教皇国大聖堂の歌姫、アイーシャ聖女が滞在しているロレーヌ公国の公都大聖堂。
通常、単に“大聖堂”と呼べば、それは、本国である神聖マクシミリアン教皇国の聖都にある大聖堂を指すが、女神を信奉するマクシミリアン教は、全世界に教会や聖堂が多数あり、各国主要都市にも、その地域を統括する大聖堂がある。
その公都周辺を統べる大聖堂の一室で、アイーシャは護衛騎士長から報告を受けた。
「わかりました。
では、折角ですから、その時間に、指揮者やオーケストラの皆さんと少し会えるかしら」
「いえ、公都の大司教猊下から、今日はここに留まるようにとのご指示がございました。
どうも公都で不測の事態が生じているようでして、明日のご公演は中止になる可能性が高いとのこと。
アイーシャ様には、万が一に備え、いつでもご帰国できるようにお支度を、とも仰せつかりました」
「そうですか……、とても残念です。
公女殿下は、かなり体調が思わしくないと聞いていましたが、御身になにかあったのであれば、私が……」
「いえ、そのような報告は受けておりませんので、ご安心ください。
仔細まではわかりかねますが、別のご事情のようでございます」
「そうなのね。わかりました。
では、護衛騎士の皆さんもご準備ください。
私の方は、特段、支度は不要です。
ご指示があれば、すぐにでもと、大司教猊下にお伝えして」
「承知いたしました」
一礼して部屋を退出した護衛騎士長を見送ると、アイーシャは、ため息をついた。
「また、アビーや、あのお方に会えるのを楽しみにしていたのだけれど……」
その後、帰国準備を整え、滞在先の部屋で待機していたアイーシャ。
そこに、大司教からの呼び出しがあった。大司教の宗務室に案内され、入室したアイーシャは、とても驚いた。
「次席枢機卿猊下……」
「アイーシャよ。
君には、こちらの方々と、急遽、アドリア王国に向かってもらうことになった」




