第83話
その後、公女警護のために必要な近衛騎士を残し、ジークフリートは、ダンツィヒ卿以下、近衛騎士団の面々と共に、公宮に転移した。
すぐに、近衛騎士団の本部と、侍従長が差配する公宮政務庁を急襲。
ジークフリートも、近衛騎士の一人として同行した。
しかし、ジークフリートが戦いに参加することはなかった。
覚醒したダンツィヒ卿が、まさに、瞬時に制圧したためである。
その際、抵抗した近衛卿派の高位近衛騎士7名を、ダンツィヒ卿が瞬殺、その場で光を発して霧散する様子に、皆、驚愕した。
すぐさま組織的な抵抗がなくなったのを見届けたダンツィヒ卿は、近衛騎士団本部に残っていた公宮警備を担当する第二近衛騎士隊の副長に、筆頭権限で、近衛騎士団本部と公宮政務庁の封鎖、予備隊の招集を矢継ぎ早に指示した。
これらを、たった10分ほどで済ませ、すぐさま、公宮大広間の公国重臣控室に通じる公家専用通路に転移した。
そこで、ロレーヌ公やフリードリヒ公子、バーデン辺境伯、イーセンブルク卿と合流。重臣控室内の様子に耳を澄ます。
なお、重臣控室でのやり取りは、イーセンブルク卿の権能を用いた秘匿回線を通じて、皆に共有されており、まさにその部屋の中にいるかのように、明瞭に、
皆の頭に伝わっている。
そんな中、大人達に交じって、緊張で強張っている
フリードリヒ公子。
公子と目を合わせたジークフリートが微笑みかけると、公子は顔を赤くして、俯いた。
少しは緊張が和らいだようだ。
しかし、すぐに、表情を変え、ジークフリート、それから、傍らにいたロレーヌ公を見る。
ちょうどその時、この重臣控室に、ようやく、離宮襲撃の報が入ったのである。
「まったく、何たる体たらくか……、
遅すぎる。危機管理がなっておらぬ」
憤慨するロレーヌ公。しかし、それをダンツィヒ卿が諫める。
「殿下、お声が……」
「おお、済まぬ。それにしても、卿が……。
これ一事でも、卿を残してきた甲斐があった。
殿下、お礼申し上げます」
と、ロレーヌ公が小声で答えた。
これまで、ダンツィヒ卿がロレーヌ公を諫めることなどなかったため、これをとても喜んだのである。
「いえ、本当に驚かれるようなことは、後程の楽しみに……。
それにしても、フリードリヒ公子殿下は、なかなかの才とお見受けする。
まさに、文武両道。心根も素晴らしい。
ロレーヌ公、貴国の将来は安泰ですな」
フリードリヒ公子は驚き、そして照れて、再び俯いた。
ジークフリートのフリードリヒ評に驚いたのは、他の皆も同様だった。
ジークフリートとフリードリヒ公子は、たった今、初めて会ったばかり。
それでも、この評価は、すんなりと受け入れられた。むしろ、それが本質だと確信した。
特にロレーヌ公は歓喜した。
「おお、殿下!
いかん……、そう睨むな、ダンツィヒ。
わかっておる。それにしても、殿下にそのようにご評価頂けるとは……。
フリードリヒよ、誇ってよいぞ。
ただし、奢るではないぞ」
「畏まりました」
「さて、それにしても、ザルムめ……。
もう我慢ならぬ!」
ロレーヌ公が扉を開け、宰相に代わり、重臣達に答えた。
「次期後継者候補を皆に紹介するのは構わぬ。
もとより、そのつもりであったからな。
しかし、そのような場に、バスティアンを参列させることは許さぬ!」




