第79話
「ふむ、やはりな。
卿は承知していたのだな。
して、フリードリヒは?
卿には、以前助けてもらって以来、気にかけてもらっていたが、どうか?」
「バスティアン殿の理不尽にも、健気に耐えておられます。
一見、線が細いですが、実は“腕っぷし”だけなら、兄殿を圧倒されるかとお見受けします。
これは、筆頭近衛騎士長殿も同意見かと存じます」
「それは意外だな。
ダンツィヒ、そうなのか?」
「御意。かなり武の才能に恵まれておられます」
「そうだったのか……。
もっと早く、卿に確認しておくべきであった。
まあ、そもそも、余はイザベルばかりを気にかけておったからな。
フリードリヒには、文の才には見どころがあったが、武でも、とは。やつらの立ち合いを見たが、バスティアンに睨まれて、手も足も出ぬようだったので、とてもそれほどの才があると思っていなかった」
「恐れながら、バスティアン殿を兄として立てていただけと存じます」
「うむ。これは良いことを聞いたな」
その後も少し話を続けていたところ、突然、部屋の中が光り、バーデン辺境伯が現れた。
「大聖女様方をお送りしてきました、殿下。
あ、あれ、イーセンブルクよ。殿下は?」
「閣下、よいところでお戻りに。
殿下は、今、お手が離せないご様子。
申し訳ございませんが、ロレーヌ公殿下をお連れ頂きたいのです。
このままでは、建国祭開催前にロレーヌ公殿下が済ませておきたいと思し召しの事が、間に合わないかもしれないと思いまして」
「それは、かまわぬが……。
ロレーヌ公殿下、よろしいので?」
「ああ、そうしてもらえると、こちらも助かる。
殿下の臣下には世話になり過ぎではあるが……。
それに、実のところ、辺境伯殿の権能、余も経験してみたいと思っていたのだ」
「ええ、ならば、我にお任せください!」
「それから、息子も連れていきたいので、そちらも、一緒にお願いできぬか」
「ええ、それは良いのですが、殿下のような精密な転移は苦手で……。
あ、殿下! そうなのです。
ああ、ありがとうございます。
これならば大丈夫です。
お手を煩わせてしまい、申し訳ございません。
え……、承知しました。
おい、ダンツィヒよ!
卿は、このまま、ここに残れと仰せだ!」
「閣下!
心の声が駄々洩れです。
それに、この方は、公国の“筆頭近衛騎士長殿”でございますよ……」
「あ……、殿下に叱られてしまう……」
頭を抱えるバーデン辺境伯。
「あのロレーヌ公殿下、筆頭近衛騎士長殿に残って頂くこと、お許し頂けますか?」
「良い。殿下には、なにか深いお考えがあるのだろう。
卿らがいれば、まったく問題ない。
ダンツィヒ、余は先に戻っている。粗相のないようにな」
困惑しながらも、臣下の礼で応える筆頭近衛騎士長であった。




