第78話
「おお! 何度見ても、驚くな。
まったく、とんでもない権能だ!」
ロレーヌ公は感嘆した。
そして、表情を改めると、傍らのイーセンブルク卿に問いかけた。
「さて、卿よ、フリードリヒの方はどうだった?
今朝は体調を崩しておると聞いていたが、大丈夫なのか?」
「ご安心ください。
フリードリヒ公子殿下も、今朝、盛られてしまいましたが、こちらは幸い下剤の類でして、公宮侍医長が処方した偽薬を、本来の回復薬とすり替えておきましたので、今頃は問題なく回復されているはずです」
「そうか……、感謝する。
本当に、何から何まで。卿には足を向けて寝られぬ」
「いえ、フリードリヒ公子殿下への企ての内容から、甘く見ておりました。
まさか、こちらで、このような暴挙に出るなど、さすがに想定外でした。
一歩間違えば、大変なことになっていたところ、念のため、殿下に事前確認をお願いしていたのが幸いしました」
「そうだな。このようなことになるとは……」
「私は、公子殿下と少し話をしておりました。
その際、まだしばらくは部屋からお出にはならないようにと、お願いしておきました。
思念伝達ですので、誰も聞いておりません。
その点は、安心ください。
しかし、こちらに来るのが少々遅れ、筆頭近衛騎士長の娘様へのご加勢が間に合わず、お怪我をさせてしまいました」
「いや、貴殿のおかげで、あの程度の傷で済んだ。本当に感謝申し上げる」
と、これまで黙って聞いていた筆頭近衛騎士長は答えた。
「うむ、余からも感謝を。
わが剣の娘、将来有望な近衛を失うところであった。
ところで、イーセンブル卿よ。
余としては、もう決しておるのだが、改めて公子に関する卿の見立てを聞きたい。
ぜひ、忌憚ない意見を聞かせてくれ」
「はっ。フリードリヒ公子殿下は……」
「いや、まずは、バスティアンから聞きたい」
「バスティアン殿ですか……、この方は、おそらく殿下とも同意見かと」
「よい、はっきり申してみよ」
このやり取りを聞いていた筆頭近衛騎士長はとても驚いた。
公女殿下への対応などからも、時に低位貴族らしからぬ不遜な言動が見受けられるが、それにしても、単に“殿”とは、公子への敬称としては、あまりにも不自然であったためである。
「不遜ながら、そもそも、血統的に……。
まあ、それを抜きにしても、あの王太子と同系統の心根のご仁かと。
さすがに、あれほど、破綻されておられるわけではございませんが……。
下々の者への対応には、かなり目に余るものがございます。
また、弟のフリードリヒ公子殿下へのなさりようにも。
今朝も少し様子を確認しましたが、さすがに、今日は、おとなしくしているようです。
しかし、配下の者達は、皆、怯えておりました」




