第77話
「殿下、ロレーム公殿下、これまでのことについては、後ほど吟味するとして、建国祭のお時間も迫っております。
そろそろ、ロレーム公殿下には公宮にお戻り頂いた方がよろしいかと存じます」
「うむ、イーセンブルク卿の言のとおりだ。
ニルデよ、他の侍女を呼んで、イザベルの支度を整えさせよ」
「畏まりました。
姫様、御仕度でございますよ。
いつまでも、このような恰好で、殿方の前におられてはなりません」
「あ、そうだわ……私、寝衣姿……」
今頃になって、自分の恰好に気づいたイザベル公女は、顔を真っ赤にする。
「ニルデよ。そのように勘違いするのでない。
イザベルも建国祭に参列させるのだ。
すぐに衣装を整えさせよ」
「でも、お父さま……。
私、建国祭に参列できるような衣装は……」
「心配せずともよい。
この離宮は、元々は、我が妻の離宮であったのだ。
衣裳部屋には、あれが着ていたドレスが山のようにある。
少々意匠は今の流行よりは古いかもしれぬが、どれも当時最高のものを集めておる。
どれでも、好きなドレスを着ればよい。
お前は、母親に似た背格好だし、問題なかろう」
「ああ、お母さまの……。ありがとう、お父さま……」
感極まるイザベル公女。ニルデがハンカチをイザベル公女に手渡す。
「少々遅れても構わぬ。
お前の準備が整ってから、皆に紹介するからな。
しっかり支度してくるのだぞ」
「はい……、お父さま……」
「うむ、しかし、選ぶにしても、ここに全部は持ってこれぬし、どうしたものか……。
部屋の前には、余に従っておった近衛達もおるしな」
離宮の周りに配されていた、ロレーム公の身辺警護を担う近衛騎士や近衛兵達の大部分は、先程の騒ぎの応援に駆け付けており、皆、この部屋の近くで控えていた。
「では、私が衣裳部屋まで公女殿下をお連れしよう。
私の権能であれば、他の誰にも会うことなく、その衣装部屋に向かうことができます。
いかがですか?
無論、お連れした後は、早々に退散しますので、ご安心ください」
「いえ、お気遣いいただき、ありがとうございます。
お父さま、お言葉に甘えてもよろしいでしょうか?」
「ああ、もちろんだ。殿下、娘のこと、お頼み申す」
「承知した。では、公女殿下。
もう少しこちらに来て、目を閉じてください」
「は、はい!」
緊張で固まるイザベル公女。
「侍女殿も、ここに」
「は、はい!」
ニルデも、同じように固まった。
「お二方、大丈夫です。一瞬ですから」
「は、はい!
私も先程の皆さまのように、消えてしまうのですね!」
目を閉じながら、固く決心した様子のイザベル公女。
「では」
瞬時に三人がこの場から消失する。




