第74話
直ちに、ザルム侯らは、近衛騎士達に拘束された。
彼らは、特に抗うことなく、素直に連行されていった。
ロレーヌ公の隣で、筆頭近衛騎士長が鋭い睨みを効かせており、その只ならぬ威圧に圧倒されたためである。
その場に残ったのは、宰相・ビドガワ伯と宰相派の重臣達。
彼らを代表して、ビドガワ伯は、ロレーヌ公に、不手際を詫びた。
「陛下。直接、お手を煩わせてしまい、臣下として、お詫び申し上げます」
「良いのだ、宰相。
先に申したように、余も承知していなかったのだ。
余こそ、この国を導くものとして、卿らに対して、これまでの不備を詫びよう」
「不甲斐ない我らに対し、もったいないお言葉でございます」
「さて、先のザルムの言にもあったが、公国が揺るぎないことは、内外にしっかりと示さねばならぬ。
よって、建国祭は予定どおりに開催する。
間もなく建国祭の開始だ。
そこで、余の後継となる“公世子”を皆に紹介することとする」
ビドガワ伯も含め、他の重臣達も一気に緊張する。
「しかし、イザベル公女殿下は、難を逃れたとは言え、ご体調に鑑みますと、とても、建国祭にお出ましになられるのは困難では……」
重臣の一人が、恐る恐るロレーヌ公の様子を伺う。
「控えよ。
殿下のお言葉を途中で遮るなど、不敬だぞ」
ビドガワ伯は、その重臣を制し、ロレーヌ公に、話の続きを求めた。
「殿下、失礼いたしました。
続きのお言葉を賜りたく存じます」
「うむ。まず、イザベルについては、体調は回復しておる。
建国祭に参列させるべく、今、身支度を整えておる最中だ。
まあ、待て、皆が動揺するのはわかる。
しかし、イザベルを“公世子”として紹介するのではない」
後ろの扉を振り返るロレーヌ公。
その扉の奥から、フリードリヒ公子が出てきた。
そして、手招きするロレーヌ公の傍らに控える。
「フリードリヒ、ここに」
「このフリードリヒを、余の後継、“公世子”とする。
皆、異論はなかろう」
「「「御意!!」」」
「イザベル可愛さで、皆にも迷惑をかけたな。
まあ、全快したとは言え、もう、イザベルは22歳だ。
これまで後継としての教育をまともに受けておらぬ。
今更、この国を導く立場になど、とても無理であろう。
それよりも、フリードリヒだ。
フリードリヒには才があって、将来、見込みがある。
これは、余の欲目ではないぞ。
ある御方が看破されたのだ。
真に女神様からご加護を授けられた方からのお言葉だ」
「おお!! なんと!!」
「ただ、才あれど、まだまだ幼い。
将来、我が公国の君主になるには、フリードリヒ自身の研鑽はもとより、卿ら重臣達の導きが不可欠。
皆で、フリードリヒを盛り立ててほしい」
「承りました、殿下。身命を賭して」
ビドガワ伯が応じ、フリードリヒに臣下の礼をとる。他の重臣達も、すぐにそれに従った。
「皆、若輩の身ながら、よろしく頼む」
フリードリヒ公子も、堂々とした態度でそれに応じた。
その様子を見て安堵したロレーヌ公。
そして、再び振り返り、扉の方に向くと、そこに一礼した。
それを意味することに気づいたフリードリヒ公子とビドガワ伯ら重臣達も、扉の奥に向けて、一礼した。




