第73話
「次期後継者候補を皆に紹介するのは構わぬ。
もとより、そのつもりであったからな。
しかし、そのような場に、バスティアンを参列させることは許さぬ!」
控室の奥の扉から出てきたのは、ロレーヌ公。
イザベル公女の見舞いに訪れた公女の離宮で襲撃に巻き込まれたと聞いていた重臣達は、突然、無傷で現れた君主に驚きつつも、皆、大変な災難に巻き込まれた君主を気遣った。
そんな中、ザルム侯は内心の動揺を隠せない様子。
そこに、ロレーヌ公が追い打ちをかける。
「皆の心遣いに感謝する。
して、ザルム侯よ。
先の余の言に対し、何か、申し開きがあれば、申してみよ」
「で、殿下におかれましては、ご無事な様子に安堵いたしました。
先に我が申し上げた件については、なんら他意はございません。
宰相にも、次期後継者候補として、公子殿下の皆様を紹介することを提案したまででございます」
「ふむ、ならば良いが……。
しかし、イザベルだけでなく、フリードリヒも今朝は体調を崩しておると聞いていたが?」
「それは我もお聞きしておりました。
しかしながら、我が公国が今後も安定的に公位を継承していく、その証となる方は紹介すべきと考えたまででございます。
今回は折り悪く、イザベル公女殿下とフリードリヒ公子殿下が体調不良のため、列席を控えられたこと、このことは、きちんと貴賓の皆様にご説明申し上げるつもりで……」
「もう良い!」
説明途中のザルム侯を遮り、後ろに控える近衛騎士を振り返るロレーヌ公。
その隣に控える筆頭近衛騎士長ではなく、これまで見たことがない近衛騎士の、まだ年若い青年と、しばらく目を合わせていた様子に、皆が困惑する。
「そうか、ザルム侯が初めから主導していたわけではないのだな。
しかし、口車に乗せられ、余と娘の危機を放置したと。
それにしても、余奴ら……」
ロレーヌ公が、ザルム侯から、近衛卿と侍従長に視線を移す。
すると、近衛卿と侍従長が諦観し、二人揃って直ちに何かを口に入れようとした。
しかし、同時にロレーヌ公の出てきた扉の奥から閃光が放たれた。
その瞬間、その場から、近衛卿と侍従長の二人が消失した。
「「「!!??」」」
「彼らは自決しようとしたようだ。
しかし、それは阻止された。
さて、ザルム侯以下、どの程度まで、この企てに係わっていたか……」
このロレーヌ公の言は、極めて冷静なものであったが、それが、返ってこの場にいた重臣達を戦慄させた。
「殿下……、殿下はどこまで承知されているのでしょうか?」
宰相のビドガワ伯からの問いに、ロレーヌ公は答える。
「余も、つい先程までは、卿と同じで、何も承知していなかった。
しかし、余も娘の危機で、承知せざるを得なくなったのだ……。
今なら、卿もおおよそのことは、見当がついていよう?」
確かに、ビドガワ伯にも見当はついていた。
しかし、確証が持てなかったのだが、少なくともロレーヌ公が確信していることは、すぐに理解した。
「御意」
「ならば、良い。では、近衛の者達よ、ザルム侯以下、ザルム派の重臣を今すぐに拘束せよ」




