第69話
(申し訳ない、ロレーヌ公。
私がイーセンブルクに、貴国と教皇国との秘匿情報把握を指示していた。
私やイーセンブルクの権能を前に、暗号文は用をなさない。
これも、この世の重要人物である、公女殿下を守るためでもあった。
ロレーヌ公の立場では、他国によるこのような行為は認められぬことは承知している。
しかし、言い訳にしか聞こえぬ、であろうが、このような含意もあり、容認願いたい)
その秘匿された会話にジークフリートが悪びれる様子もなく、割り込み、許容を迫った。
しかし、逆に、この言を受け、ロレーヌ公はいつもの冷静さを取り戻した。
(なるほど、概ね殿下のお気持ちはわかりました。
そのような態度でおっしゃっておられるが、悪意はまったくないことは。
詳細は後程お願いいたします。
まずは……)
ここから先、ロレーヌ公は、声を出して、語りかけた。
「良い。わかった。説明は後で聞こう。
まずは、忠臣達の治療だ。
大聖女様方、大変恐縮ではありますが、
余の忠臣達の負傷の回復に、ご助力願いたい」
「ええ、ロレーヌ公殿下、私の娘にお任せください。
シャル、いいわね?」
「ええ、お母様、任せて」
イーセンブルク卿が、負傷した近衛騎士と衛兵を、シャルロッテの前にいくように即す。
負傷兵達がシャルロッテに対し、片膝を付き、礼を取る。
「足をお怪我されている方々は、ご無理なさらないでください。
では、これから、癒しを与えさせて頂きます」
シャルロッテが負傷兵達に、微笑みかけながら、やさしく語りかける。
「それでは、ヒール!」
シャルロッテにしては珍しく、掛け声を発して、癒しの権能を行使した。
すると、シャルロッテのかざした両手から、神聖な光が現れ、負傷兵達の全身を包み込む。
瞬く間に傷が癒えていき、負傷兵達は、驚愕する。
これまで聖女の癒しを受けたことはあっても、ここまで瞬時に治ることなど、初めてのことであったためである。
そして、この少女が極めて高い能力を有する聖女であることを、皆、理解した。
「「「ありがとうございます、聖女様!!」」」
怪我が治療されるだけでなく、皆、生気に満ちた表情となり、屈強な兵達が一斉に迫力ある声で感謝の意を伝えると、シャルロッテは、その声に驚き、少したじろぎながら、答えた。
「い、いえ、皆さん、お元気になられたようで、なによりです」
「余からも、改めて礼を。
大聖女様、シャルロッテ聖女殿、娘と忠臣へ癒しを施してくださり、感謝申し上げる。
特に娘には……、本当に、本当に……」
と、ロレーヌ公も、自らの申し出に、完璧に応じたシャルロッテと、
それを命じたブリュンヒルデに頭を下げた。
「い、いえ、殿下。
当然のことをした迄です。
どうか頭をお上げください」
「そうですわ、殿下。
娘の言う通りです。
さあ、皆様方、お楽になさって下さい」
大聖女母娘から声をかけられ、ようやく落ち着きを取り戻した。
「皆、大儀であった。
我とわが娘、それから、ここにおられる貴人の方々をお守りした忠義に、
後ほど、恩賞を持って報いる。
なお、皆には、引き続き、この企てに関与した者を罰するのに、その力を発揮してもらいたい。
良いな!」
「「「御意!!!」」」
ロレーヌ公からの言葉に、兵達が一斉に答えた。
さらに迫力ある声に驚くシャルロッテ。その様子を見て、皆が和んだ。




