第68話
「殿下、近衛の者が、とんだ不始末を……」
筆頭近衛騎士長は、ロレーヌ公に平伏して、深く謝罪しようとしていたところ、ロレーヌ公が制した。
「第五近衛騎士隊には、我が娘に絶対の忠誠を誓う者を配せよ、と命じておったのに……。
そうだ、ダンツィヒ!
卿の娘も、先日、配されていたのではなかったか?」
「はっ、先日より、フリードリヒ公子殿下付きの第七近衛騎士隊から、公女様付きに……」
ちょうどその時、負傷した近衛騎士と衛兵を伴って、近衛騎士の装いのイーセンブルク卿が入室してきた。
「グ、グレタ!」
「父上……、いえ、筆頭殿。
不甲斐なく、負傷してしまい、申し訳ございません。
こちらの騎士殿に加勢して頂かなければ、危ういところでした」
と、筆頭近衛騎士長に答えた後、近衛騎士グレタは、片膝をつき、ロレーヌ公に首を垂れた。
「よいのだ。副長が裏切る危機に、よくぞ立ち向かった。
ダンツィヒよ、娘が無事でなによりだったな」
「はっ、恐縮でございます」
「それから、イーセンブルク卿よ。
卿の加勢、感謝する。
卿には、助けてもらってばかりだ。
どのような礼で報いればよいか……。
ともかく、余ではなく、殿下にご報告するがよい」
しかし、ジークフリートはそれを制し、イーセンブルクに、ロレーム公に対し、報告するように命じた。
「残念ながら、殿下。
近衛卿と、それから、公宮の人事を差配している侍従長が、裏切り者の首謀と存じます」
「な、なんと言うことか……。
我が臣下の中で、数少ない我が娘の援護派で、我が亡き妻に最も献身的に尽くしてきた者達だったのだぞ……」
ロレーヌ公は衝撃を受けていた。
(最も信心深い者であったのは、間違いないかと。
深夜のご決定を受けて、このような大事を翌朝早くから即対応が可能な者は、貴国中枢の御二方のみ)
イーセンブルク卿は、口頭ではなく、ロレーヌ公の心の中へ、その理由を説明した。このやり取りは、誰も聞いていないことを、即座に、ロレーヌ公は理解し、心の中の言に耳を澄ます。
(なお、侍従長に関しては、公女殿下へのご対応から、以前から目を付けておりまして、教皇国・大聖堂と交わしていた密書は確保しております。
暗号文で記されたものですが、殿下であれば、問題なく、お読み可能かと)
(た、確かに、教皇国との秘匿情報のやり取りには、ある暗号で記すこととなっているが、なぜ卿が存じているのだ……)




