第0.7話
その少女の歌声は、とても中性的な響きで、しかも透明感があり、心に染み入る素晴らしいものだった。
「この曲は、演奏することも出来ます。
今度は、あなたが歌ってみてください」
と、その少女は、先程とは異なり、逆に心配そうに、こちらを見つめながら、話しかけてきた。
「え、本当? 是非、お願い。
この曲の楽譜を失ってしまって、もう誰にも弾いてもらえないかと思っていたのだけれど……。
けれど、よく知っていたわね?
遠く大陸の南端の国の曲なのに……」
「すみません。
実は、以前、あなたがここで歌っているのを聴いて、覚えてしまったのです」
その少女は、アイーシャに微笑みかけ、その曲の前奏を弾き始めた。
そして、歌い出しのところで、一拍空けて、こちらを見て、うなずいた。
アイーシャもそれに合わせて歌い始めた。
程なく、とても気分が高揚してくるのがわかった。
うれしくなって、歌い続ける。
気づくと、自身の体が発光しており、その光が、少女に向かって、降り注いでいた。
見ると、少女の痣は綺麗に治っていた。
知らず知らずに、自らの癒しの権能を行使していたらしい。
少女は驚きながらも、演奏を続けてくれた。時間にして、半時程だろうか。どちらからともなく、自然に見つめ合い、そして、演奏をやめた。
「ありがとう。とても元気になったわ」
「いえ、こちらこそ、痣を治してくださり、ありがとうございました」
その後、二人で、この聖堂で過ごすのが日課のようになり、とても親しくなった。
その少女は、大聖女様の娘の見習い侍女とのこと。また、見習い侍女とは思えないほど、立ち振る舞いが洗練されていたが、なんと帝国の大貴族に所縁のある御令嬢だったそうだ。
そんな御令嬢が、親元を離れて、遠い異国で見習い侍女をしているのは、なにか特別な事情がありそうだったが、それは尋ねないことにしていた。
いまや、大親友といってもよい関係となり、いずれは事情を話してくれるかもしれないが、無理に聞くようなことではないのだから。
その時以来、アイーシャの権能は飛躍的に向上した。
しばらくすると、神官達は、アイーシャを最上位の施設へ異動させることにした。
アイーシャは、今度は身の回りの私物をきちんと持って移った。
新しい紙の束、そう、それは、あの少女が書き留めてくれた楽譜だった。
そんなある日、二人で、いつものように、歌っていたら、突然、入口の扉が開き、別の少女が入ってきた。
「フリーデ、ずるいのだ! 私も仲間に入れるのだ!」




