第0.6話
その少女と出会ったのは、約半年前。アイーシャが、ここ、神聖マクシミリアン教皇国の上位見習い聖女の施設に移って程なくの頃だった。
大陸の最南端で生まれたアイーシャは、物心付く前から、聖女の素養があるとのことで、この教皇国に連れてこられたが、なかなか聖女の権能が発現せず、長らく下位の見習い聖女の施設で過ごしていたのだが、ようやく、その兆しが出てきたとのことで、施設が変更となった。
突然の施設替えとなったために、まだ、前の施設に私物は残していた。
ようやく、大事にしていた楽譜などの私物を取りに戻ることが許されたのだが、既に私物は処分された後だった。
私物の中には、アイーシャにとっては、とても思い入れのある楽譜があったのだが、何も知らない者が見れば、ただの古い紙の束。
たまたま、練習中で、部屋の共通のテーブルの上に放置してしまっていた自分が悪いのだが……。
処分した同室だった少女は謝っては言っていたが、それを大事にしていたことは承知していたはず。
皆とは違う黒髪でも仲良くしてくれていた、唯一の親友だと思っていたのだが、どうやら、自分だけが施設替え、しかも、中位でもなく、いきなり、上位の施設に変更になると聞いて、気を悪くしたらしい。
これまでとは異なり、とても余所余所しい、その少女の態度に、とてもやるせない気持ちになってしまった。
そこで、気分転換に、しばしば忍び込む、古い聖堂に向かった。
その聖堂は、とても古く、今は使われていないが、特に入口の扉は施錠されておらず、一人で歌うには最適な場所であり、いじめられた時に、たまたま、ここを見つけて以来、よく忍び込んでいた。
扉を開ければ、内部は、とても荘厳な雰囲気。
最近は、なぜか、清浄な空気に満たされている気がする。
そんなことを考えながら中に進むと、祭壇付近で、楽器、おそらく、ヴァイオリンのケースを持った、その少女を見かけた。
よく見ると、その少女は、体の所々に痣があった。
心配になって、声をかけると、その少女は、顔を赤らめながら、下を向いた。
「恥ずかしがらなくてもいいのよ。その痣が気になってしまって。よかったら、私が治してあげるわ」
この程度の痣ならば、さすがに、今の私でも治せるはず。
なので、それほど気にすることはないのだが、なぜか、その少女は頑なに俯いたまま、首を振る。
「そう……。わかったわ……」
何をしても、うまくいかないと、アイーシャがガッカリしていると、不意に、その少女が歌い出した。
それは、とても懐かしい、あの曲。無くした楽譜の中にあった曲の一つで、しかも、特にお気に入りの生まれ故郷の曲だった。




