第0.5話
とは言え、従者はこの“事前察知”する能力で、他の騎士との立ち合いも、それなりに卒なくこなすことができているが、あくまで平民出身の従者。
土台となる技量が及ばず、あのように事前に察知できても、主の斬撃を回避することは不可能だった。
この二人の立ち合いに夢中になっていた、従者。
そこで、不意に自らの能力が飛躍的に高まった気がした。
その瞬間、少女の動きが一瞬鈍り、斬撃を受け損なってしまった。
高々と吹き飛ばされた少女。
しかし、空中で体勢を立て直し、主の頭上に迫る。
だが、これは悪手だ。主は、落下してくる少女に狙いを定める。
そこで、主の放った刀の鋩を、少女は自らの刀を横にして平地部分に当てて逸らした上で、その接触を起点に方向を変えて、着地した。
「そこまで!!」
剣聖が声をかけ、立ち合いは終了となった。
しかし、従者は先程から、その場から動けなくなった。
剣聖が従者の首に剣を突き付けていたのだ。
少女もなんとか大きな怪我は負わなかったようだが、先程から、従者を睨んでいる。
「どういうつもりだ?」
剣聖が従者を睥睨しながら、問う。
そして、主であるバーデン卿もすぐに従者を叱りつける。
「おい、カールよ。先程の“あれ”は何だ?
殺気……、ではないな……、
しかし、立ち合い中に、妙な“気”を放つとは何事か!!」
「え……、
そのようなつもりはなかったのですが……。
大変申し訳ございません」
従者の若者は、とても困惑しながら、謝罪した。
すると、片手を押さえながら、少女が近寄ってきた。
先程までとは違い、表情は和らいでいた。
「従者様は、偽りなく、正直に謝罪されておられます。
ですから、師匠もバーデン卿も、従者様をお許しください」
「まあ、お前がそう言うのならば……」
剣聖は剣を鞘に納めた。しかし、バーデン卿は収まらない。
「いや、しかしだな……。
我が従者が大変失礼した。
怪我は大丈夫か?
咄嗟に手加減したのだが、間に合わなかったのだ。
本当にすまない」
「いえ、ご遠慮無用と願ったのは私でございます。
それに、この程度の怪我、普段の師匠との稽古では日常茶飯事でございますので、本当にお気になさらずにお願い申し上げます」
丁寧に頭を下げる少女。
「ならば、良い。
それにしても、パルジファルよ。
本当に、この子は凄まじいな。
将来、史上最強の女騎士になるのは、間違いないな」
「いや、それはない」
「「!?」」
きっぱりと言い切った剣聖の言葉に驚く、バーデン卿とその従者。
「私は、騎士にはなれませんから……」
どこか残念そうに、そう答えた少女。
その答えを聞き、納得したバーデン卿とその従者であった。
しかし、少女の、いや、少女のような外見の、その者が、そのように答えた真に意味することを知るのは、さらに先の話……。




