第59話
「それをお飲みになる必要はございません。
むしろ、飲んではいけない!」
「貴様は、何を言っている!
近衛騎士の分際で……、そこに控えよ!」
公女の主治医である公宮侍医長のクスマウル卿が、後から入ってきた近衛騎士の青年を叱りつけた。
突然倒れたイザベル公女を抱きかかえ、クスマウル卿の指示で、さらに薬を飲ませようとしていた侍女ニルデは、大変困惑した。
この近衛騎士の青年は、いったい何を言っているのか。
本来ならば、一介の近衛騎士が口出しすべきことではないのだから。
しかし、不思議とこの近衛騎士の言には、違和感がなく、むしろ、納得感があった。
「いったい、何の騒ぎだ。ここは、我が娘の寝所の前だぞ」
そこに、君主であるロレーヌ公が入室。
この公女の寝所の前室にいた者は、皆、一気に緊張した。
「な、イザベル!
だ、大丈夫か。
おい、クスマウル、これはどういうことだ。説明せよ!」
説明を求められたクスマウル卿は、件の近衛騎士の青年を睨み付けた後、ロレーヌ公に平伏し、説明を始めようとした。
しかし、とても説明できるような状況ではなくなった。
その近衛騎士の青年を見たロレーヌ公がなぜか驚愕し、その場で平伏したのである。
「大変失礼いたしました。
この者は、我が娘の主治医で、公宮侍医長のクスマウルでございます。
な、なにか、無作法を……」
「……、弱りましたな……。
頭をお上げ下さい、ロレーヌ公殿下」
「殿下、私などに敬称は不要でございます」
いったい何が起きているのか?
さらに、困惑した侍女ニルデであったが、抱きかかえていたイザベル公女が咳き込み、苦しみ始めたために、そのような困惑は意識から一気に吹き飛んだ。
「ひ、姫様!」
「ああ……、イザベル……。
殿下、なにとぞ、娘を、娘を、お助け下さい!」
「承知しました、ロレーヌ公。
もとより、そのつもりでしたが……、少し失礼を」
近衛騎士の青年がイザベルに近づいてくる。
ニルデが緊張して見つめていると、その青年は、細めた目でニルデを見つめる。
「あなたは……、とても、公女様のことを大切に思っているのですね。
大丈夫。安心して、私に任せてください」
そして、その青年は、またも、目を細めて、次にイザベル公女を凝視する。
「甘かったな……。
まさか、このような暴挙に出るとは。遠慮している場合ではなかった」
青年の頭上に、突然、神々しい宝玉が浮かんだ。
それが眩しく輝いた瞬間に、青年とロレーヌ公、公女イザベル、侍女ニルデ、それにロレーヌ公に随伴していた筆頭近衛騎士長の5名を除く、その場にいた全員が消失した。




