第57話
イーセンブルク卿のロレーヌ公への説明が続いている。
「このため、貴国とアドリア王国との関係が悪化することはございません。
よって、殿下に置かれましては、我が帝国と、アドリア王国のいずれを支持するのか、そのお立場を明確にされる必要もございません。
もちろん、我が帝国としては、貴国にご支持頂ければ、非常にありがたいことではありますが、実を申しますと、”現時点では”、むしろ、貴国には、少なくとも表向きは、アドリア王国寄りのお立場を堅持して頂きたいのです」
「なるほど、それは、我が国としても非常にありがたい。
しかし、我が国存亡の危機を救って頂いておいて、何もお返ししない訳にはいかぬ。
それこそ、”タダ”より高いものはない。
”現時点では”、とのことだが、あのお方は、”将来的に”、我が国にどのような代償をお求めなのかな?」
ロレーヌ公は、イーセンブルク卿に問う。ここは、ロレーヌ公としても、はっきりさせておきたい。
「さすが、殿下。ご理解が早く、ありがたいことです。
我が主としては、王国連合各国をかつてのような属国とすることまでは望んでおられません。
しかしながら、我が主の真意はともかくも、王国連合各国から見れば、我が帝国を脅威に感じるのも無理からぬこと」
「うむ……」
「そこで、今後発生するアドリア王国の混乱が収拾した然るべき時期に、我が帝国とアドリア王国との間で、講和を結ぶことを、我が主はお考えなのです。
そのためには、まずは、停戦協定を結ぶ必要がございますが、貴国をその交渉の舞台とさせて頂きたいのです」
「確かに、停戦交渉は利害関係のない、第三国が担う。
しかし、我が国では、荷が勝ちすぎるのではないか?
むしろ、国際情勢から考えて、教皇国が担うのが自然ではないか?」
「教皇国と友好関係にある貴国には、大変恐縮ではございますが、我が主は、教皇国に対しては、王国連合とは、異なる対処をお考えなのです」
「!?」
「ここでは、これ以上、明言はできませんが……。
さて、ここからが本題でございます」
イーセンブルク卿は、これまでになく、強い態度を示した。
「我が主は、貴国に、教皇国との関係を絶つことをお望みです。
これは将来的な話ではございません。
それこそ、将来的には、まったく用をなさない話ですので」
「なるほど、そういうことか……。
しかし、それは、大変申し訳ないが、即答はできない……」




