第56話
イーセンブルク卿は、そのような先の世の趨勢を、”実際”に見聞きしてきたのであるが、そのような様子は、おくびにも出さず、説明を続ける。
「少なくとも、王太子暗殺にスフォルツァ公が関与した明確な証拠として、すでに実行犯と指示者を確保しております。
実行計画を裏付ける物証も、もちろん確保済でございます。
必要でしたら、貴国に引き渡しますが……」
「そ、そんなものを渡されても、処置に困る!
卿の言うことはわかった。信じよう……。
しかし、ならば、我が国はどうすればよいと言うのか……」
困惑するロレーヌ公に、イーセンブルク卿は明確に答える。
「殿下、ご心配には及びません。
騒ぎを起こしたアルベルト王太子は、自身の暗殺計画の証拠を伴って、ご帰国頂きますので。
その後、アルベルト王太子は、自身を窮地に陥れたスフォルツァ公と、その一派に、逆襲するはずですので、当面、アドリア王国は大混乱となるでしょう」
「しかし、そもそも、王太子は軍門出身。
軍事的には、アルベルト王太子の派閥が優位ではないのか?
速やかに、スフォルツァ公が倒されれば、直ぐに、我が国に侵攻してくるのではないのか?」
「殿下、その点も、ご心配には及びません。
王太子には、自身を、我が主の手から救い出すのに、殿下が大いに尽力した旨、伝えておきますので。
殿下に対しては、感謝はすれども、恨みを抱くなど、あろうはずがございません。
それから、西の大国、ブルグント王国にもアドリア王国の妙な動きを知らせております。
ブルグント王国としては、大国間の緩衝地である貴国の重要性を再認識しているはずですので、アドリア王国へも何らかの働きかけはするかと」
「な、なんと……」
そこまでの深慮遠謀だったのか、と、ロレーヌ公は驚愕した。




