第55話
「先程も申し上げましたように、然るべき時期に、貴国で王太子を暗殺するためでございます。
スフォルツァ公爵家は歴代のアドリア王家と外戚の関係にございますが、現在の王太子の母親である王妃は、スフォルツァ公爵家の出身ではございません。
軍門の名家出身でございます」
「それは、存じてはおるが……、
ああ、なるほど、そうなるのか……」
先程まで見せていた怒りや困惑の表情は消え、どこか諦観した様子のロレーヌ公。
「ご理解頂いたようで、安心いたしました。
アドリア国王は、その軍事的な成果で、外戚のスフォルツァ公爵家からの過度な干渉を抑えることに腐心していました。
有力な後見人ではありますが、正直、目の上のたん瘤だったのです」
イーセンブルク卿は、説明を続ける。
「さて、アドリア国王が、あの王太子を立太子させた表向きの理由は、戦意高揚。
あのような男ですが、初陣での軍功は凄まじく、兵士達からの支持も高かったためです。
まあ、長子でもありましたが、あの国では、長子であることは、さほど重要ではありません。
アドリア国王自身も第五王子でしたし」
「うむ、続けてくれたまえ……」
「とは言え、スフォルツァ公としては、そのような表向きの理由などで納得できるものではありません。
自らの権力基盤が脅かされた訳ですから。
なんとしてでも、自らの娘の息子、彼にとっては孫を王太子にし、王家を継がせる必要があった。
しかし、その孫は、当時はまだ若輩であり、成長するまでの時間が必要。
さらに、自国内で凶行に及べば、自身に累を及ぼす恐れがありました」
「そこで、我が国ということか……」
「ええ。隣国の貴国で、凶行に及び、現王太子を排除し、自らの孫を立太子させる。
その後、貴国に責を迫って、侵攻すれば、大義名分も立ちます。
しかも、貴国であれば、軍事力の差は歴然。
勝敗は戦う前から明らかです。
立太子された孫を総大将にすれば、軍功も確実に手に入れられる。
さらに、貴国は小国ながら、回廊に接しており、交通の要所。かつ、教皇国への入口です。
すでに、回廊の一つに接しているアドリア王国が、一国で二つの回廊を有することになりますので、この面で、我が帝国と並ぶこととなります。
戦術的な武勲としては見劣りしても、戦略的には、貴国を侵略したことで得られる政治・経済的な利点は、かなり大きい」
「まるで、見てきたように、言うのだな……。
しかし、その根拠は……」




