第50話
イーセンブルクは、主の主君であるジークフリートに決断を迫った。
「ご自覚なさいませ、殿下。
お二方をこれほど愛おしく思っておいでなのですから。
お二方とも娶り、幸せになさいませ」
「な、なにを言っている。
そのような不誠実なことを……」
「殿下、貴方様は、帝国皇太子なのですよ。
奥方が何人いようと、いや、何人もいる方が当たり前なのです。
下級貴族や商人ですら、当然のことです。
そのようなこと、申し上げる必要もないことではないですか!」
「いや、しかし、俺の良心に反するというか……」
「良心?
それは、女神様の影響でしょうか?
少なくとも、この世では、それなりに高位の者であれば、平民でも、そのような倫理観はございません」
「良心と倫理観は違うだろう」
「違いますが、両者は対立するものではなく、補完し合うものですので。
殿下、ここで言葉の定義を議論しても無意味でございます」
「……、卿の言うとおりなのかもしれんが……」
「ようやく、ご納得頂いたようですね。
それから、歌姫様のことです」
「ここで、なんで彼女が出てくる……、
お前、まさか……」
話題の展開についてゆけず、さらに困惑するジークフリートに、イーセンブルクは、かまわず、話を続ける。
「ですので、私は、殿下の思いは承知していると申し上げたではないですか。
歌姫様は、殿下の初恋のお相手。
殿下が音楽に関心を向けられたきっかけのお方ですし……」
「まだ幼い、子供だった頃の話ではないか!
ん、なぜ、お前が知っている……、
いや、そうか、こんなことまで知っているのだな……」
困惑しつつも、イーセンブルクが権能で承知していることに、今さらながら気づく、ジークフリート。
「しかし、今や、殿下も、歌姫様も、立派な大人。
しかも、歌姫様”も”、殿下のことが気になっているご様子ですよ」
「なにを言っている。
俺が危機を救ったから、恩義は感じているかもしれぬが……、
ん? やはり、お前、まさか!?」
「いえいえ、それは副次的な産物です。
ですが、その後の殿下の完璧なフォローのおかげで、歌姫様からは絶大な敬愛が得られたはずです。
これは、歌姫様のお心を覗いた訳ではないのですが、間違いないでしょう」
「いや、しかし……、
だからといって、俺がどうこうする話ではないではないか!」
「それは、そのとおりではあります。
さすがに、歌姫様のことを、シャルロッテ様やアビゲイル様のように愛されている訳ではないことは承知しておりますが、憎からず思われているのは、お間違いないでしょう」
「いやいや、だからと言ってだな……」




