第46話
「ジークは、演奏も得意なのだ……。
きっとオーケストラの皆さんも気に入ると思うのだ……」
アビゲイルの更なる追撃も加わり、ジークフリートはこれ以上の抵抗を放棄し、その申し出を承諾することにした。
「あいわかった。
では、せっかくだし、この劇場のパイプオルガンで演奏させてもらおう。
5分弱の短い曲だ。
この曲の出だしは声楽的なので、歌姫殿の演奏を担う卿らにも親しみやすいと思う」
ジークフリートがパイプオルガンに向かう。その場にいたパイプオルガン奏者に断りを入れると、その奏者は恐縮しつつ、席を譲った。
突然現れた青年に、客席が騒めく。どうやら、あの青年が演奏するらしい。
程なく、先ほど連れ去られた歌姫が無事に戻ったこと、さらに事態を解決したのが、あの青年であることが客席にも伝わった。
大国の横暴を解決できる者など限られている。
そもそも、青年の立ち振る舞いがとても洗練されており、なにより、その纏う雰囲気から、青年が極めて高貴な方だと、客席の誰もがすぐに悟った。
まもなく、皆が静まり、演奏の開始を見守った。
そして……、青年によりパイプオルガンで奏でられる荘厳で美しい音色に、皆、聴き惚れた。
青年が演奏を終えると、皆、盛大な拍手を送った。
皆、初めて聴く、この曲に感嘆したのである。
アンコールを求め、拍手は鳴り止まない。
「アビー、君のヴァイオリンで、もう一度どうかな?
俺も伴奏で合わせるから」
「でも、私のヴァイオリンは……、え!?」
突然、ジークフリートの手に、ヴァイオリンが現れた。この不可思議な現象に皆、驚いた。
「心配しないで。大丈夫、これで弾いて。
アビーが別邸に来た時によく使っている、あれだよ」
弦楽器、とりわけヴァイオリン属の楽器は、一本ごとの個性が非常に大きい。
このヴァイオリンは、ジークフリートがバーデン辺境伯領にある別邸に多数保管しているコレクション中でも、とりわけ名器で、深みのある音色や遠達性に特に優れており、アビゲイルは、とても気に入り、自分の愛器にも劣らぬほど手馴染んでいた。
「わかったのだ。アイーシャ、それから、皆さん、聴いてください」
アビゲイルは、ジークフリートからヴァイオリンを受け取り、少し調弦して、準備を済ませる。
ジークフリートとアビゲイルは、お互いに見つめ合ってから、演奏を開始した。
ヴァイオリンは、人が歌い上げるような切なくも美しい主旋律を奏でる。
そこに、重厚で神秘的なパイプオルガンの伴奏の響きが加わり、そこにいたすべての人々を魅了した。
「ああ、本当に、素敵……。ありがとう、アビー。それから……」




