第43話
「承知いたしました。
しかし、警備の者が同行することをお許しください」
「これほどの警備体制の劇場内で必要でございますか?」
「リハーサルを見学している熱心なファンが少なからずおられますので、万が一に備えて、ぜひとも……」
「で、王太子殿下! 困ります。現在、リハーサル中ですので……」
「ええぃ、邪魔するな!
なんだ、他にも見学している者がいるではないか!!
しかも、ちょうど休憩するところだと。
で、あれが、歌姫か?
なるほど、美しいなぁ」
ステージに無理やり入ってきたのは、帰国したはずのアドリア王国のアルベルト王太子であった。
アルベルト王太子は、強引にアイーシャの手を引き、立ち去ってしまった。
客席には、リハーサルを見守っていた各国の要人やその妻子達も少なからずいた。
皆、困惑し、当初は非難する声もあったのだが、すぐに、その無礼な男が、王国連合の盟主で、大国のアドリア王国の王太子だと気づき、押し黙った。
大国の横暴を目の当たりにしたが、事態の推移を見守ることしかできない彼らは、不安と憤りを感じた。
「ジーク! あの男はなんなのだ!?」
「……アドリア王国の王太子だ。
イーセンブルクめ、失敗したのか?
いや、あいつのことだから……」
「なにを言っているのだ?
そんなことよりも、アイーシャはとても怯えているのだ。
ジーク、アイーシャを助けてあげてほしいのだ」
「ああ、もちろんだ。
それにしても、愚か者だとは聞いていたが、あれ程とは……」
その後、ステージ袖にある控室に居た人々を追い出し、控室にアイーシャを無理やり押し込んだアルベルト王太子は、酷薄な笑みを浮かべながら、配下のアドリア王国の近衛騎士達に命じた。
「お前ら、しばらく誰も入れるな!」
近衛騎士達が出ていくと、控室の扉が閉じられた。
「さて、ようやく楽しめそうだな」
「だ、誰か、助けて……」
恐怖のあまり、その場に崩れ落ちそうになったアイーシャだったが、背後から誰かに抱きかかえられた。
この控室には、目の前の恐ろしい男以外、誰もいなかったはず。アイーシャは不思議に思ったが、なぜか不安はなく、むしろ優しく支えられ、安堵した。
「ああん、なんだ、貴様は!!」
「殿下、どうされましたか!」
異変に気付いた近衛騎士達が控室に入ってきた。しかし、彼らが入室した瞬間に、控室の扉はひとりでに閉じられた。
「これで全員だな」
「なんなんだ、貴様は!!
おい、お前達、あの男を切り捨てよ。
女のことは気にするな。
歌姫と言っても、どうせ聖女なのだから、少々傷ついても、すぐに治る」
「黙れ! 消え失せろ!!」




