第42話
イーセンブルク卿は、ロレーヌ公に報告を続ける。
「捕らえた者は、末端の者達で、仔細は承知していないようですが、
引き渡しに指定された場所は、貴国とアドリア王国との国境付近でございます。
ですので……。
まあ、それにしても、なかなかに執念深い方のようです」
「確かに。それにしても、卿らの働きには、感謝する」
「恐縮です。こちらも承った件ですので、ご協力は惜しみません。
しかし、殿下、歌姫様の警護は、さらに強化された方がよろしいかと。
僭越ながら、警備責任者の方をご紹介頂ければ、
警備上の懸念点をお伝えいたします」
「万全の警備を指示していたのだが……、
警備に”穴”があると言うことか?」
「いえいえ、要人警護の常識からは、かなり過剰とも言える程の警備体制だと、お見受けいたします。
しかし、相手が相手ですので……、
杞憂かもしれませんが、懸念点は払しょくしておいた方が良いかと」
「確かに。卿に助言を請おう」
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昨日、公都に到着した大聖堂の歌姫、アイーシャは、早速、公宮でロレーヌ公に拝謁した。
アイーシャは、大陸の北・中部に多い金髪で淡い色の瞳などの外見的特徴とは異なり、黒く豊かなツヤのある髪、透き通るような肌、比較的太い眉毛、そして吸い込まれそうなほど大きな目に宿る美しい瞳が特徴の大変魅力的な美人としても有名であった。
このため、公都大劇場や滞在先である公都大聖堂の周辺では、噂の美しい歌姫を一目見ようと、多くの人々が集まり、大変な騒ぎとなった。また、その事が公都中で評判になり、さらに注目を集めた。
さて、公演は、明日の建国祭初日の夕方である。到着が遅れ、リハーサルなどの公演の諸準備が可能なのは、今日と、公演当日の午後のみ。
なお、公演当日の午前中は、建国祭の開会式が11時から開催されるため、そちらにも参列予定の歌姫一行は、これらの他の準備もあり、リハーサルに割ける時間は、あまりなかった。
さらに、今日の夕方には前夜祭があるため、朝から大劇場を訪れたアイーシャは、オーケストラの指揮者やコンサートマスター、ヴァイオリンのソリスト、パイプオルガンの演奏者らと、綿密な打ち合わせをし、午後からはオーケストラのメンバー達とのリハーサルを精力的に行った。
「アイーシャ様、休憩後に、全体の音合わせをしたいと思いますが、どうでしょうか?」
「ええ、よろしくお願いいたします。 その前に、少し客席に。
舞台が観客からどのように観えるのかも、確認したいものですから……」




