第41話
ロレーヌ公国の建国祭では、公国が誇る大劇場で、様々な公演が開催されるが、今年は近年では他に例がないほどの話題となっている公演があった。
なんと、親聖マクシミリアン教皇国が誇る大聖堂の歌姫、アイーシャ聖女によるフルオーケストラ公演であり、比類ない美声が大評判の聖女による、教皇国外での初公演とあって、大変な人気となり、大陸南部の周辺各国からも多数の参加希望があった。
各国要人への有効な外交カードとして利用していたロレーヌ公であったが、まさか、他国の王太子が自ら、その歌姫に”夜伽”をさせよと、恫喝してくるとは、まったくの想定外であった。
ここまではっきりと要求されては、教皇国との外交問題となることは必至で、とてもではないが、受け入れられるものではなかった。
ようやく、最後には、「昼間に控室で会うだけで良い」と、要求を変更した王太子だったが、彼の下心を知った後では、会うだけで済むとは、とても思えず、ロレーヌ公は対応に苦慮していた。
そこに、隣室にいるはずのイーセンブルク卿の声が、突然、聞こえてきた。相変わらず詰り続ける王太子はもとより、ロレーヌ公以外の周囲の誰もが、気づいてない様子。
困惑していたロレーヌ公だったが……、
(私の権能で、殿下だけに直接お話しております。
他の誰も聞くことはできませんので、ご安心ください。
さて、僭越ながら、王太子殿下の要求ですが、ご承諾されてはいかがでしょうか?
我々の方で手を打ちますので……)
とのこと。そこで、半信半疑ながらも、状況が状況だけに、承諾したのだが、どうしても不安は拭えない。
とは言え、今は亡き親友の息子を、帝国の一翼であるエッペンシュタイン大公の後継者にしてくれた帝国皇太子の、あの懐刀ならば、なんとかしてくれるだろうと考えていたら、程なくして、アドリア王国において、何か不測の事態が生じたらしく、王太子一行は急遽帰国することとなった。
その翌日に、入れ違いで、大聖堂の歌姫一行がロレーヌ公国に到着した。
到着が予定よりも少々遅れたため、王太子と鉢合わせにならずに済み、ようやく一息ついたロレーヌ公だったが、その後、今回の件について礼をするためにイーセンブルク卿と面会した際に、困惑する報告が告げられた。
「それは、本当か?」
「ええ、殿下。
大変勝手ながら、念のため、我が配下を大聖堂の歌姫様ご一行の陰警護に任じておりましたが、その配下からの報告がございました。
貴国入国後の2日間に2回、歌姫様ご一行を襲撃しようとしていた不届き者がおりました。
実は、こちらで拘束しておりますが、いかが致しましょうか?」
「依頼主は……」
「お察しのとおりです」




