第40話
それにしても、自国内ではなく他国において、小国とは言え、君主に対し、抜刀して恫喝するとは……。
同席していた者は、皆、驚愕した。
同行していた王太子の弟であるトンマーゾ王子がすぐに止めに入り、しぶしぶ刀を鞘に納めた王太子であったが、非礼を詫びるどころか、延々とロレーヌ公を詰り続けた。
根負けしたロレーヌ公が承諾したことで、ようやく解放された同席者達は、皆、憔悴していた。
しかし、まだ気を抜くことはできない。
なぜなら、隣室には、さらに一筋縄ではいかぬ人物が控えて、様子を伺っていたためである。
「大変待たせたな、イーセンブルク卿」
「いえいえ、こちらが無理にお願いしたのですから。
殿下には、大変ご配慮頂き、恐縮でございます」
商人の装いのイーゼンブルク卿が、深く頭を下げながら、ロレーヌ公に挨拶する。
「まあ、卿には恩義がある。
それに、卿を前に隠し立てしたところで、無駄だしな。
それにしても、アルベルト王太子殿下には困ったものだ。
しかし、本当に承諾してしまっても大丈夫なのか?」
挨拶を交わした二人は、さっそく、先程の件について、相談を始めた。
「殿下のお立場も考えますと、致し方ないかと。
まあ、王太子殿下には、早々にお引き取り頂くように、こちらで手配することとしますので」
「それならば良いが……。
とは言え、無関係の卿に依頼する立場としては心苦しいが、できれば、我が国内で、事を荒立てるのは遠慮してもらいたいのだが……」
「ええ、いくらなんでも、自国で”不測の事態”が起こったと知れば、あの殿下も帰国せざるを得ないでしょう」
「うむ……。ならば良い。大聖堂の歌姫の公演は、予定通りに開催しよう」




