第34話
「御意。
殿下の御名のお一つを授かったイーセンブルク卿は、バーデン辺境伯閣下の恩義を忘れず、殿下の直臣となることを辞退し、陪臣に留まった、まさに忠臣の中の忠臣。
それに、あれほどの権能。とても侮るなど、我も含め、決して、そのようなことはないと、お誓い申し上げます」
「ならば、良い。
正直、イーセンブルクの本質を見抜けず、侮る輩が、我が直臣にも多いのだ。
卿からも、よく申し伝えてもらえると助かる」
「承知いたしました」
「では、下がってよい」
一礼し、ジークフリートの寝所を後にしたシャイデマン子爵。それを見届けると、寝所の隅に声をかけた。
「もういいぞ」
すると、誰もいなかったところから、突然、一人の青年が現れた。
「殿下、よろしいのでしょうか?
あれ程の地位を与える必要はなかったのでは?」
「良い、なんら問題ない。
2ヶ月後には、卿が継承するのだからな。
さすがに、俺でも、卿をいきなり内務卿には出来ぬ。
しかし、ごく短期とは言え、一応は内務卿であったのだ。
嫡男が継ぐならば、無理も通しやすい」
「恐れ入ります。
それにしても、我が父ながら、なんと浅はかな……。
殿下を手玉に取った気でいるとは。
まさに、“誑しが誑しに誑される”でございます」
「まあ、自らの“隠ぺい”の権能に絶対の自信があるのだろう。
息子にそれを上回る権能があるとは、思いもしなったようだが」
「さらに、それをはるかに上回る権能をお持ちの殿下の前では、私などは赤子も同然でございます」
「しかし、イーセンブルクは欺いていたではないか。
一部とは言え、女神様の権能を与えられたあいつを欺けるものは、卿の他に知らぬ」
「恐縮です。しかし、それも殿下を通じて知られてしまっては、あまり意味をなさないのでは?」
「それよ。なんとか、卿のように、隠ぺいしたいのだが、ままならぬ。
まあ、それはそれとして、卿の父が未だに隠している残りの暗部の動きはどうだ?」
「やはり、大部分は、“北”の公子達の三つ巴の諍いに干渉しているようです。
そちらも糾合し、その武力を背景に、教会領に隠れている皇兄殿下を即位させるという筋書きのようです。
教皇国としては、帝国がこのまま殿下でまとまり、安定してしまっては困るようで、かなり必死です」
「残りの暗部は、やはり“北”か……。
公子どもはどうでも良いが、あの大公とは、事を構えたくはない。
何か、手はないものか……」
「そちらは、妙案がございます」
「ほう、さすがだ」
目を細めて、目の前の男を凝視するジークフリート。
「なるほど、よく見つけたな」
「ただ、かなり警戒しておりまして……。それから……」
「やはりな。あの大公も、師匠と同じか……」




