第0.3話
ここは、神聖マクシミリアン教皇国の大聖堂に隣接している邸宅。大聖女一家が住まう、この邸宅には、使用人の侍女や護衛騎士も住んでいる。
ただし、この邸宅に住んでいるのは、皆、女性。唯一、離れに、男性の護衛騎士長が家族で暮らしているが、これは大聖女を守護するために特別に許された例外的措置であった。
その護衛騎士長は、“剣聖”と呼ばれるほどの当代一の騎士であり、彼に指南を受けたいという騎士や剣士が多数いた。
しかし、剣聖は大聖女の護衛が主務であり、彼の指南を受けられるものは非常に限られていた。
その剣聖が、模擬戦を行っていた。剣聖の攻撃を受けることができるものは、まずいないのだが、今日の相手は、まさに“鉄壁”であり、剣聖の攻撃を見事に受け切っていた。
その相手は、鎧姿の、まさに戦士。先程から半時ほど、攻防が続いていた。
その様子を熱心に見つめる見習い侍女に、鎧姿の戦士の従者が声をかけた。
「お嬢ちゃん、君は侍女、いや、まだ見習い侍女だろう? そんなに熱心に見ているけど、興味があるのかい?」
見習い侍女は、声をかけた従者を見上げる。しかし、すぐに困惑の表情となった。
「い、いや、気を悪くしたのなら、すまない。君のような小さな女の子がどうしてって、気になっただけだから」
「いえ、こちらこそ、お声がけ頂いたのに、申し訳ございません。
私は見習い侍女なのですが、実は師匠に剣術をご指南頂いているのです。
あの師匠の斬撃をあれほど見事に受け切る方を初めて見ましたので、とても驚いたものですから。
とても勉強になります。
でも、時折、考えられない速度で受けられるのが、どうしても理解できなくて……」
「それはそうだ。こいつは、ズルをしているからな」
「なにを言うか、これは、先祖代々、我の一族に授かった権能。
これを使わずして、どうするというのか?」
模擬戦は小休止にしたようで、剣聖と戦士が会話に加わってきた。
「け、権能でございますか?
あ、失礼いたしました。
高位貴族の方に直言してしまい……」
「よいよい。こいつの事はまったく気にせずとも良いのだ」
「ああ、そうだぞ!
そんな事は気にせずとも良い。
しかし、こんな可愛らしい、小さな女の子が剣術に興味を持つとは、驚きだな。
我が従者が疑問に思っても仕方ない」
「おいおい、この子は、もうすぐ11歳になるんだ。
あまり小さいと言ってやるな!」
「おお、そうか。それは、すまなかったな。
ところで、そんなに気になるのなら、ちょっと我と立ち合いをしてみるか?」




