第18話
この辺りまでは、皆が、ある程度は承知していたことだったが、詳細が知らされていなかった大聖女ブリュンヒルデは、大変驚いていた。
しかしながら、その後、ジークフリートだけでなく、バーデン、イーゼンブルクにも、ジークフリートの権能の一端が発現したことが報告されると、それまで寡黙であったミュッケンベルガー元帥も驚愕していた。
ミュッケンベルガー元帥は、2mを超える長身の猛者であるが、長い軍歴では、武勇よりも高い知略の方での評価が高い人物であり、その彼がこれほど驚く様子はまず見受けられないことであった。
「バーデン辺境伯はともかく、イーセンブルク卿にも、とは……。
一端とは言え、そのような権能を有するものが、帝室や大聖女様の系譜に連なる方々以外からも出てくるというのは、俄かには信じられぬ。
イーセンブルク卿よ、卿は、本当は、どこぞの、“やんごとなき”方のご落胤とかではないのか?」
治癒の権能は、貴賤問わず女性を中心に、極めて少ないながらも一定の割合で発現している者がいるが、それ以外の権能では高貴な血筋以外からの発現は、これまで例がない。
イーゼンブルクは、先の皇太子ジークフリートの窮地において、身を挺して救った功績から、皇太子により、自身の正式名にも含まれていた、歴代皇太子が代々複数継承している爵位のひとつ、イーゼンブルク子爵位を名誉爵位として下賜されたものの、出自は、生粋の平民であった。
「いえいえ。私は、元々家名を持たぬ、しがない商人の息子ですので」
なお、イーセンブルクの現在の正式な家名は、彼の主であるバーデン辺境伯から男爵叙爵時に授けられた別の家名なのだが、ジークフリートからイーセンブルク子爵を家名として通称使用する許可が与えられており、皆、皇太子に敬意を表して、通称のイーセンブルクの家名で呼ぶこととなった経緯があった。
さて、先程のイーセンブルクの言を受け、主であるバーデン辺境伯がミュッケンベルガー元帥に次のように答えた。
「イーセンブルクの出自は、我が領に遊学中の殿下の従者に任ずるにあたり、徹底的に調査しておりますが、そのような報告はございません。
イーセンブルクは、我が領の商人向けの学校で、極めて優秀な成績を収めておりまして、兵站の要員として、士官学校に転属させたところ、戦術面でも才を発揮したことから、取り立てた経緯がございます。
平民にしては、あまりにも才に恵まれておりまして、出自はともかく、発現の素養はあったのかもしれません」




