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エバー・ア・ソード・フォー・ローゼズ  作者: deki
本編1

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第8話

「お母さま? どうかされたのですか?」


「ジークが……」


 急報の内容は、皇太子ジークフリートが、ブラウンシュヴァイク大公領と隣領であるカレンベルク伯爵領の間にあるモーゼル渓谷で土砂崩れに巻き込まれたというものだった。


 モーゼル渓谷は、特に狭い谷間や急峻な岸壁が特徴の難所であったが、最近、改良工事が完工し、かなり安全に通行可能になったはずであった。


 この想定外の事態に、大公家政庁は混乱していた。


 多数の文官が、錯綜する情報の取捨選択に追われている。


「土砂崩れは、カレンベルク伯爵領側であったようです」


「殿下の乗られた馬車が土砂に飲み込まれたようです。生死は不明ながら、状況から絶望的とのこと……」


「今のところ、裏工作があった形跡はないようです」


「殿下のご帰還に際し、万全を期していたはずだが……。

 十分な資金を援助したにもかかわらず、カレンベルク伯爵領のやつらめ。

 手抜き工事でもしておったのか!」


 大公家・家宰であるフェンビュッテル伯爵が憤り、報告書を投げつける。


 他の重臣達も、沈痛な表情。


 そこに先触れもなく、大聖女ブリュンヒルデ本人が訪れた。


「私がすぐに向かうと申し伝えたはず。いつになったら、準備が整いますの」


「今しばらくお待ちください、大聖女様。

 閣下がご自身で被災現場に急行されておられます。

 この混乱の中、大聖女様まで向かわれるのは……」


 ブリュンヒルデの後ろで、このやり取りを聞いていた少女二人は、お互い頷き合い、そっとその場から離れた。


「やっぱり、私たちが行くしかないわ。

 おじ様のお力では無理かもしれないもの……。

 私たち二人の力を合わせれば、絶対にジークを助けることができるわ。

 お母様が侍女や護衛たちの準備を済ませているし、私たちだけでも、すぐに出発しましょう」


「ああ、そうだな。急ごう。

 ジーク、無事でいて……」


 護衛騎士が手綱を握る馬車に乗り込んだ少女二人は、少数の侍女と護衛を伴って、直ちに城から抜け出した。


 大聖女の関係者には、無条件通行許可書《フリーパス》が与えられており、城門や関所の通過を妨げられることなく、公都を抜けることができた。


 もちろん、二人が通過したことは直ちに大公家政庁に伝わるはず。


 連れ戻されることがないよう、急いで進んでいた一行だったが、その前を立ち塞がる一団が現れた。


 ここは、まだ公都の近くだが、見通しの悪い林の中。頬に大きな切り傷のある大男が十数人の野盗を引き連れ、二人が乗る馬車を取り囲んだ。


「無礼者! そこをどけ!」


 護衛騎士が恫喝するが、彼らに動じる様子はない。


「そんなに急いでどこに行くつもりなのかは知らねえが、こんな豪華な馬車なら、かなりの上玉が乗っていそうだな」


「愚か物どもめ。その程度の人数でどうにかできると考えるとは、なんと浅はかな。それにしても、公都近くで、このような野盗どもがいるとはな。すぐに排除せよ」


 護衛騎士達が抜刀し、馬車を守りつつ、数名が野盗達に立ち向かう。大公領でも精鋭の護衛騎士達との技量差は歴然であり、野盗達はすぐさま撃退された。


「聖女様方、もう大丈夫です」と、護衛騎士が声をかけると、馬車から二人の少女達が、続いて同乗していた女性騎士が降りてきた。


 しかし、すぐに異変に気付く。少女達は両手を挙げており、女性騎士が小刀を少女達に向けていたのだ。


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