第7話
「シャル! 抜け駆けは、許さないのだ」
「アビーこそ! 私に隠れて、ジークと何をするつもりなの?」
瓜二つの美しい二人の少女達が、何やら口論している。その様子を微笑ましく眺めるのは、二人の母親である大聖女ブリュンヒルデ。
5年前、双子の娘達を伴って、親聖マクシミリアン教皇国から、帝国の一翼をなすブラウンシュヴァイク大公領に亡命した彼女達は、その後、幸せな日々を過ごしていた。
その間、教皇国は、幾度も大聖女達を帰国させようと画策したが、強大な軍事力と政治力を誇るブラウンシュヴァイク大公が庇護する彼女達には、接触することさえできなかった。
「二人とも、そろそろおやめなさい。せっかくの紅茶が冷めてしまうわ」
「でも、母上。シャルが」
「いいじゃないの。この出来栄えなら、ジークも喜ぶわ」
シャルロッテが描いた肖像画を眺めながら、ブリュンヒルデは話を続ける。
「アビー。あなたがジークのために頑張っている練習の成果も披露してほしいわ」
「え! どうして母上が知っているのだ?」
「なんでも知っているわけではないけれど、あなたが知らないって思っていることは、大抵知っているわよ」
大聖女の双子の娘達は、どちらも芸術的な才能に恵まれていた。
姉のシャルロッテは絵画、妹のアビゲイルは音楽。
ブラウンシュヴァイク大公の庇護下には多数の優れた芸術家が集っていたが、その中でも超一流の芸術家に師事している彼女達は、その才能を本格的に開花させつつあった。
「やっぱり!
アビー、どんな曲を練習しているの?」
「秘密だ。まずは、ジークに聴いてもらうのだ」
「ずるいわ。私の絵は見たくせに」
「はい、はい、そこまで。
さきほど連絡があって、今、ジークは、モーゼル渓谷を通過しているそうよ。
だから、遅くても、あと5日で会えるはずよ」
「まだ、5日も…」
「あと5日しかないのか、頑張らないと……」
異なった反応をする二人。
彼女達の背後に控え、温かく見守っていた侍女長ロッテンマイヤーのもとに、慌てた様子の侍女が駆け寄ってきた。
「どうしたのです。見苦しいですよ」
「そ、それが、急報でして」
差し出されたメモを一瞥したロッテンマイヤーは、すぐさま、ブリュンヒルデに耳打ちする。
「なんですって……」




