第6話
「どうやら、うまくいったようだな」
「あれを見れば、流言を簡単に信じるのも、無理からぬかと」
眼下の回廊に長く連なる5万人の“かがり火”を眺めながら話しているのは、帝国のバーデン辺境伯と、その配下で、辺境伯領軍の筆頭軍師を務めるイーゼンブルク子爵。
バーデン辺境伯は歴戦の強者であり、アドリア王国の進撃をその都度防ぎ、“鉄壁バーデン”の異名をもつ。
バーデン辺境伯が率いてきたのは、一見、大軍勢だが、実兵力は2千人にも満たない。
他の大部分は、先日の対戦と、これまでの長年の戦いで帝国に捕らえられていた王国連合各国の捕虜達であった。
捕虜達には、今回のアドリア国王と大聖女との婚礼を記念した恩赦があり、捕虜から解放され、自国への帰国が認められたと伝えられており、帝国からの強行軍にも、不平を言うことなく、素直に従っていた。
「それも、交戦中のはずの閣下が進軍してきたわけですし。
そもそも、ここが非武装中立だと、信じて疑わなかったのでしょう」
と、イーゼンブルク子爵が話すと、バーデン辺境伯が、ため息交じりに呟く。
「まあ、頭の固い馬鹿どもで助かったな。
さらに捕虜に紛れ込ませたギーに、王国連合側をかく乱させれば、我々は後顧の憂いなく、我が帝国の掃除に専念できる。
しかも、卿がいれば、大公家との連携も問題ない」
「……」
「ハハハ、まあ、良い。
あとは、殿下達と無事に合流するだけだな。
ダンツィヒも付いておるし、まず大丈夫のはずだが……」
突然、上空を見上げ、困惑した表情のバーデン辺境伯。
主のこのような顔を見るのは初めてのイーゼンブルク子爵は非常に驚いた。
「閣下、何事ですか?」
「あ、あれは、殿下ではないのか……」
バーデン辺境伯が指さす。
イーゼンブルク子爵も、教皇国の聖都方面の上空を見上げると、夜だというのに、一点だけ明るく光っており、よく見ると、背に白い大きな翼を持つ女性が聖騎士の鎧を着た青年を抱きかかえながら、こちらに降りてくる。
「ええ、間違いなく、殿下です!
しかも、殿下を抱えておられるのは……、
め、女神様!!」
そして、まもなく、後光を伴って女神が舞い降り、バーデン辺境伯に聖騎士の装いの主君・皇太子ジークフリートを引き渡した。
ジークフリートは、とても深い傷を負っており、意識がない状態。
しかも、重さを感じず、宙に浮いている状態であった。
驚愕する彼らに、女神は微笑みかけた。
「今、この時しかないのよ。
この間隙を突くのが、精一杯……。
あとは、この者の働き次第……。
この場に立ち会ったあなた方も、
この者と運命を共にすることを許しましょう。
あの愛らしい蕾たちが
本来の明るさ、華やかさを取り戻して、
咲き誇る様を見せて……」
すべてを聞き終える前に、彼らは眩しい光に包まれ、この時空から消失した。




