第95話
「内務卿閣下の分も準備しておったのですが、いかがしましょうか?」
ダイニングルームでは、5名分の席が用意されていた。
執事長の問いに、ジークフリートが困った顔をしながら、答えた。
「しばし待て、爺。
うむ、やはり無理そうだな。
折角用意してくれたのに、すまないが、屋敷の皆に、下賜する……」
答えながら、顔をしかめる、ジークフリート。
「どうしたのだ?
内務卿は、やはり来られぬのか?
残念なのだ。褒めてあげるつもりだったのに……」
「良いのだ、アビー。
改めて、機会を用意するから。
アイーシャも、それでいいかな?」
「ええ、もちろんです。
できますれば、内務卿シャイデマン宮中伯閣下に、いつの日にか、お会いできる機会を与えてくだされば……」
「もう……、アイーシャは固いのだ。
普通に話すのだ!」
「そのつもりなんだけど、どうしても、ね?」
「まあ、無理せずとも。徐々にで、良いよ。
それから、シャイデマンなんだが、先程、宰相になった。
程なく、叙爵して、侯爵になる予定だ」
「え、ええ……、宰相閣下……。
そんな方に、陰警護して、助けて頂いたなんて……」
「だ・か・ら、今更なのだ。
前にも言ったが、ジークは皇太子なのだぞ!」
「ええ、そうなのだけれど、頭が追い付かないわ……」
「まあ、仕方ないさ。
ただ、シャイデマンもアイーシャに恐縮されては、とても困惑すると思うよ。
ついさっきまで、ここに来るのだと、散々駄々をこねていたからな。
大公や元帥が嗜めていたくらいだが、相変わらず、まったくブレないんだ。
あれほどの大事をしっかりやり遂げ、本懐を遂げ、宰相になったというのに……」
「うむ、さすが、内務卿、いや、宰相なのだ!」
「もう、アビーたら……。
ところで、ジ、ジーク?
ソファで眠っておられたお姫様のような方だけれど、お屋敷の方々に、客室でお休みしてもらうように、お願いしていたの。
でも、まだ、お眠りみたいなのです。
さすがに、少し心配だから、起こして差し上げた方がよろしいのでは?」
「いや、イザベル公女殿下の安眠を妨げない方がいいなぁ。
彼女には、いい夢を見てもらいたいから」
「な、なんだと!
彼女はやっぱり、お姫様だったのか?
シャルが助けたお方だよな?」
「ああ、そうだよ」
「うむむ……、ジークの浮気者め!
何人、侍らせる気なのだ!」
「な、何を言っている。
それこそ、彼女は、まったく、そのようなことはないさ。
そんなことを言ったら、ご迷惑だぞ!」
「そんな訳はないのだ。
ジークに助けられて、好きにならない訳はないのだ!」
「いや、だから……。
まさか、助ける度に、そんなことになれば、大変なことになってしまうよ。
俺には、まったくその気はないから、安心してくれよ」
「まあ、信じるのだ……、でも……。
いや、そうだな、ジークを信じるのだ!」




