第93話
バーデン辺境伯領のヴェーネミュンデ海岸にあるジークフリートの別邸のバルコニーでは、眼下の浜辺を眺めながら、二人の少女が楽しそうに話していた。
すると、二人の持つ宝飾品が光だし、目の前に光の柱が降りてきた。
そして、光が収まると、そこには、二人が今、話題にしていた青年、ジークフリートが現れた。
「ジーク、おかえり!」
「おかえりなさいませ」
二人が声をかけると、
「ああ、ただいま。お待たせしたかな?」
と、ジークフリートが答えた。
「ううん、アイーシャと話していたから、あっという間だったのだ。
まだ、帰ってくるのが、早いのだ!」
「そうか、楽しい時を過ごせたのならよかった。
歌姫殿もどうだったかな?」
すると、問いかけられたアイーシャは、頬を赤らめながら、戸惑った様子で答えた。
「い、いえ、殿下の、その、その後の事を、色々と聞いていましたので……、
本当にあっという間でした。
でも、その、殿下が、本当に、あのフリーデなのですか?」
すると、ばつが悪そうに、少し恥ずかしがりながら、ジークフリートが小さな声で答えた。
「まあ、その……、決して本意ではなかったのだが、
疎開先では身分を秘匿する必要があって、仕方なく……」
「何を気にしているのだ?
そんなことを、大親友のアイーシャが気にする訳がないのだ。
そもそも、私達を引き合わせたのは、それぞれと大親友だったジークなんだから。
だから、二人とも!
いつまで他人行儀な話し方をしているのだ。
いい加減にするのだ!」
「で、でも、アビー?
当時は殿下とは知らなかったのだし、今となっては、皇太子殿下に対して、不敬よ」
「いや、それは気にしないでくれ。
臣下の者であっても、いや、陪臣のイーゼンブルクでさえ、心許した者には直言を許している。
だから、その、アイーシャも俺に、以前のように気軽に話してもらえるとうれしいのだが……」
「で、殿下……」
「もう、アイーシャ!
まあ、今更、女の子の愛称のフリーデとは呼べないだろうけど、私と同じように、ジークと呼べばよいのだ。
それでいいよね、ジーク?」
「ああ、もちろん。
そう呼んでもらえると、本当にうれしい」
「わかりました……。ジーク……。ジーク?」




