第3話
「あの後、その場に残った聖剣卿は、枢機卿や大司教ら教皇国の幹部を惨殺した後、大聖堂を出て、教皇宮や宗務庁のある西の区画に移動し、今も暴れ回っております」
「聖剣卿は、余程、教皇国に恨みがあるのか、神官や教皇国の衛兵には容赦ないのですが、我が国の近衛兵などには、こちらから仕掛けぬ限り、手出ししてこないようです」
アドリア国王の外戚で、有力な後見人であるスフォルツァ公は、大聖堂内に急遽設置させた対策本部に、今回の教皇国での国王婚礼に随行してきたアドリア王国の首脳陣を集め、まずは、近衛卿のコロンナ宮中伯から報告を受けていた。
そして、スフォルツァ公は、コロンナ宮中伯を問い質した。
「聖剣卿め、やけに派手に暴れておるな……。それで、あの場から消えた忌々しい皇太子と、大聖女の行方は、まだ分からぬのか?」
「申し訳ございません、閣下。大聖堂の中を隈なく探させているのですが、いまだ発見できておりません」
と答えた、コロンナ宮中伯は、問いを発したスフォルツァ公の様子を伺う。
「うむ。やはり、聖剣卿の動きは陽動だ。
こちらの注意を引き付けるつもりなのだ。
聖剣卿は、捨て置け。
あんな化け物は教皇国に押し付けておけばよい。
我が方は、皇太子と大聖女の探索に注力せよ。
まだ大聖堂のどこかに潜んでいるに違いない」
「確かに。
閣下のお考えに間違いないと存じます。
それから、現場に残されていたものでございますが、かなり精巧な認識阻害のマントでして、そのマントの中に隠れて大聖堂内部に侵入していたものと考えられます」
「脱出時も同じような手段を用いたはず。
ならば、厳重に封鎖しておれば、そのうち間違いなく見つかるはずだ。
見つけ出すまでは、大聖堂の敷地からは、誰一人、いや、どのような物であっても、一切の出入りを禁ずる。例外はない。良いな!」
「はっ、承知いたしました」
アドリア国王の近くで挙式に参列していたスフォルツァ公であったが、何とか命拾いした。あのような恐怖を与えた帝国の皇太子を決して許すことはできない。
なお、スフォルツァ公にとって、安心材料はあった。
幸いにも、あの皇太子が行使した宝剣による強大な力が発揮できるのは、1日のうち数分のみであり、かつ、大聖堂の祭壇付近に限られるとの伝承があると、同じく難を逃れた神官達が話しているのを聞いたからである。
確かに、あれほどの強大な力が、そう易々と行使できるはずもなく、事実、その後に皇太子によって行使されたとの報告もない。
そもそも、長時間の連続行使が可能ならば、あの場からすぐに立ち去ることなどせず、我々を殲滅していたはず。
ならば、神官達の話していた内容は、蓋然性が高いと判断していた。




