第64話 筋肉と筋肉
ダービルは、止まらなかった。
迷宮の構造。
罠。
分岐。
そんなものは、もはや意味を成していない。
壁という壁を、破壊しながら。
一直線。
ただ最短距離を求め、
筋肉のみで突き進む。
ドゴン!!
バゴォ!!
ズガァン!!
石壁が砕け、
粉塵が舞い、
迷宮そのものが悲鳴を上げる。
ミリア
「ちょっ……!!待ってください!!」
崩れる瓦礫を避けながら、
ミリアは必死に追いかける。
ミリア
「普通は道を探すんです!!
作るものじゃありません!!」
だが、ダービルは止まらない。
振り返りもしない。
ダービル
「筋肉の前に、道理は不要」
ミリア
「またそんなことを言う!!」
※
そして――
バン!!!!
最後の壁が砕け散る。
粉塵の向こう。
そこには――
巨大な広間。
多数の魔族兵。
武装。
警戒。
だが、その表情は一様に混乱していた。
魔族兵A
「か、壁を壊してきただと!?」
魔族兵B
「入口から来ないのかよ!!」
魔族兵C
「どうかしてるぞ……!!」
完全に予想外。
正規ルートを無視し、
壁を貫通して現れる敵。
それはもはや侵入者ではなく、災害だった。
※
その魔族たちの中央。
一際巨大な影。
巨漢。
ダービルに匹敵する体格。
圧倒的な筋量。
その男だけは、
狼狽えていなかった。
※
男
「……オーマの部下は、入口から入ることを知らぬのか」
嘲笑。
筋肉への自信。
ダービルは静かに前へ出る。
そして。
ダービル
「……ルームサービスだ」
沈黙。
ダービル
「筋肉一丁」
広間全体が静まり返る。
ミリア
「意味が分かりません!!」
ツッコミが響く。
だが、ダービルは真顔だった。
※
男は、ゆっくり立ち上がる。
床が軋む。
男
「貴様が……噂に聞く」
一歩。
男
「魔王軍最高の筋肉を持つ男か」
ダービル
「……いかにも」
男は鼻で笑う。
男
「無知とは罪だな」
さらに一歩。
男
「上には上がいるということを――」
筋肉が膨張する。
血管が浮き上がり、
衣服が弾け飛ぶ。
ビリィッ!!!!
魔族たちが息を呑む。
男
「教えてやろう」
ダービルの目が細まる。
ダービル
「……ほう」
男
「我が名は――」
男
「パドル」
男
「魔王シューベット五人衆最強の男だ……!!」
ミリア
「あいつが、五人衆……!!」
その威圧感。
その筋量。
明らかに、これまでとは格が違う。
ミリア
「それに、五人衆最強……!?」
だが。
ダービル
「案ずるな」
静かな声。
絶対的自信。
ダービル
「魔王オーマ四天王――」
一歩。
ダービル
「ダービルだ」
※
二人の巨漢が、歩き出す。
一歩。
また一歩。
その度に、
部屋が揺れる。
床が軋む。
空気が震える。
筋肉。
そして筋肉。
純粋なる暴力の塊同士。
そして中央。
二つの巨体が、相対した。
ミリア
「ダービルさん……!!」
※
パドルが先に動く。
巨大な拳。
右ストレート。
バン!!!!
直撃。
ダービルの左頬を撃ち抜く。
ガン!!!!
「ぬぅ……!!」
衝撃。
だが、倒れない。
踏みとどまる。
そして即座に。
バン!!!!
ダービルの左ボディ。
鋭く、重い。
パドル
「ぐっ……!!」
巨体が一歩、下がる。
パドル
「小癪な……!!」
再び右腕。
バン!!
バン!!
バン!!
部屋中に打撃音が響く。
拳。
筋肉。
骨。
ダービル。
パドル。
交互に殴る。
避けない。
防がない。
ただ、打ち合う。
パワー対パワー。
筋肉対筋肉。
純粋すぎる殴り合い。
その迫力に、
誰一人近づけない。
魔族兵も。
ミリアも。
ただ、見守るしかない。
ミリア
「がんばって……!!
ダービルさん……!!」
※
ミリアの声が届く。
パドル
「くっ……!!」
ついに。
パドルが一歩後退する。
パドル
「……化物め……!!」
目線の先。
ダービル。
その表情。
笑っていた。
ダービル
「俺は――」
拳を握る。
筋肉が膨れ上がる。
ダービル
「こういう戦いがしたかったんだ」




