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第60話 筋肉は扉ごと突破する

魔王城内部。

複雑に入り組んだ通路。

無数の罠。

張り巡らされた迎撃術式。

その全てが。

侵入者を削り。

止め。

絶望させるために作られていた。

普通ならば。

一歩進むたびに消耗し。

慎重に。

恐怖と共に進むしかない。

だが。

今回の侵入者は、普通ではなかった。

魔王城中央管理区画。

巨大な魔法モニターの前。

五人衆の一人。

ブルーウェル。

冷静沈着。

防衛と分析を得意とする男。

城内各所の状況を確認しながら、額に汗を浮かべていた。

「正門は、すでに突破された!!」

声には、明確な焦りがあった。

「敵は、五つの扉のいずれかを進んでいるはずだ!」

「魔王城外部の罠を突破してきた手練れだぞ!」

「通常戦力では止まらん!」

「必ず突破してくると思え!!」

魔族たち。

「はっ!!」

「防衛強化急げ!!」

「迎撃準備を!!」

ブルーウェル。

「元々、各通路には罠がある!」

「だが、それだけでは足りぬ!」

「扉そのものを補強しろ!!」

「侵入を許すな!!」

その判断は正しかった。

極めて合理的。

普通の相手ならば。

間違いなく。

ここで進軍速度は落ち。

消耗し。

徐々に追い詰められていく。

だが。

ブルーウェルはまだ理解していなかった。

相手が“筋肉の勇者”であることを。

同時刻。

竹助とセリアーナ。

第一ルート。

相変わらず。

常識を無視して進軍していた。

「勇者様!」

セリアーナが前方を指差す。

「また落とし穴です!」

床が崩壊。

奈落。

底には巨大な杭。

即死級。

だが。

竹助。

「問題ない」

ドンッ!!

脚力。

空を蹴る。

エアウォーク。

当然のように虚空を踏みしめ。

何事もなかったかのように通過する。

セリアーナ。

「さすがです!」

「筋肉です!」

ミリア不在のため、ツッコミ役がいない。

そのため。

空気が自然すぎた。

まるで、これが正常な攻略法であるかのように。

次。

無数の槍罠。

壁面から高速射出。

数百本。

常人なら回避不能。

竹助。

「遅い」

拳を振る。

ドゴォッ!!

拳圧。

空気の衝撃だけで槍群が全破壊。

鉄片が周囲に散る。

セリアーナ。

「完璧です!」

「無駄がありません!」

次。

拘束結界。

高位術式。

侵入者の肉体そのものを固定する封印魔法。

セリアーナ。

「勇者様!」

竹助。

「押す」

メリメリメリ……!!

結界を。

素手で。

物理的に押し広げる。

結界悲鳴。

そして突破。

セリアーナ。

「筋肉が魔法を上回りました!」

そうして。

数々の理不尽な筋肉突破の末。

ついに。

巨大な扉へと辿り着く。

他とは明らかに違う。

重厚。

巨大。

強い魔力。

明らかな防衛拠点。

セリアーナが、わずかに表情を引き締めた。

「……ここは」

竹助。

「おそらく」

一拍。

「五人衆とやらがいる部屋だろう」

セリアーナ。

「五人衆……!」

緊張が走る。

竹助は冷静だった。

「扉は五つあった」

「ならば」

「それぞれに五人衆が配置されている」

「そう考えるのが普通だろう」

セリアーナ。

「さすが勇者様ですね!」

「理論的です!」

珍しく。

本当に理論的だった。

竹助が、巨大扉の前に立つ。

拳を握る。

「……よし」

「行くぞ」

セリアーナ。

「はい!」

その扉の先に。

どれほど危険な敵が待つのか。

どれほど激しい戦いが始まるのか。

二人は、まだ知らない。

その頃。

扉の向こう側。

ブルーウェル防衛区画。

ブルーウェル本人が、扉の前に立っていた。

「よし!」

「次はこの扉だ!!」

部下たちが巨大補強材を運ぶ。

「敵は必ずこの扉を通ってくる!!」

「ならば!!」

「扉そのものを破壊不能にし!」

「開かぬよう補強する!!」

魔族たち。

「おぉぉぉ!!」

「さすがブルーウェル様!!」

「完璧な防衛策!!」

「知略!!」

「これで敵も終わりだ!!」

ブルーウェルが、部下たちを見渡す。

その目には、確かな信頼があった。

「……いつも無理を言ってすまない」

一瞬。

魔族たちが驚く。

ブルーウェルは続けた。

「苦労ばかりかけてしまうな」

静かな言葉。

だが。

そこには本心があった。

部下の一人が、力強く答える。

「ブルーウェル様、気にしないでください!」

「俺たちは、ブルーウェル様のために頑張りますよ!」

「あなたに仕えてよかった!」

「共に侵入者を止めましょう!」

その言葉に。

ブルーウェルは、わずかに目を細める。

「ふふ……」

「素晴らしい部下を持っ――」

その瞬間。

バンッッッ!!!!

轟音。

空間が、揺れる。

扉が。

正面から。

粉々に吹き飛んだ。

「…………え?」

補強作業。

意味なし。

鉄。

魔法。

防御術式。

全てまとめて破壊。

扉の破片が吹き荒れる。

悲鳴。

衝撃。

混乱。

そして。

その中心。

悠然と立つ二人。

竹助。

セリアーナ。

静寂。

竹助。

「……五人衆とやらは、いるのか?」

部屋全体が固まる。

魔族たち。

「…………」

誰も、即答できない。

なぜなら。

ブルーウェル本人が。

吹き飛んだ扉の下敷きになっていたからだ。

「ぶ、ブルーウェル様ぁぁぁぁ!!」

「ブルーウェル様が!!」

「しっかりしてください!!」

セリアーナ。

「……いないんですかね?」

竹助。

「……どうやら」

一拍。

「見当外れだったようだな」

完全に。

気づいていない。

魔族たち。

(いる!!)

(下!!)

(あなたが倒しました!!)

(目の前!!)

だが。

怖くて言えない。

竹助とセリアーナが、そのまま前進する。

魔族たちは。

本能的に。

左右へ分かれ。

道を開けた。

まるで王の行進。

竹助。

「……いいのか?」

魔族たち。

「……どうぞ」

完全服従。

セリアーナ。

「失礼します!」

礼儀正しい。

こうして。

竹助とセリアーナは。

自覚なきまま。

五人衆ブルーウェルを撃破。

しかも。

戦闘すら発生させず。

ただ扉を開けただけで。

知略。

防衛。

罠。

補強。

忠義。

部下との絆。

その全てを。

筋肉は。

扉ごと突破した。

残された魔族たち。

「みんな急げ!!」

「ブルーウェル様をお助けしろ!!」

「回復班!!」

「ブルーウェル様ぁぁぁ!!」

だが。

その叫びも虚しく。

筋肉の勇者は。

すでに次の部屋へと進み始めていた。

ブルーウェルの知略が。

“扉ごと消し飛んだ”ことを知らぬまま。

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