第59話 筋肉が導く五つの扉
激戦の末。
魔王城正門付近は、ようやく静寂を取り戻していた。
先ほどまで響いていた咆哮。
爆音。
拳圧。
断末魔。
その全てが消え去り。
今、そこに残るのは。
崩れた瓦礫。
倒れ伏す魔族たち。
戦いの余韻。
そして。
なお前へ進もうとする者たちの、荒い呼吸だけだった。
リオンが剣を下ろし、深く息を吐く。
「……終わった、のか」
バーバラが肩を回す。
「いやぁ……今までで一番無茶苦茶な突入だったよ」
ブロックも、巨大盾を下ろしながら苦笑する。
「正門を拳で吹き飛ばす勇者なんて、初めて見た……」
ネイソン。
「もはや勇者の定義そのものが変わりつつありますね」
ミリア。
「私もそう思います……」
だが。
セリアーナだけは、誇らしげだった。
「さすが勇者様です!」
「筋肉は全てを解決します!」
「だから、それは違いますって!!」
※
戦いを終えた一行の前に。
新たな光景が現れる。
巨大な広間。
そして、その奥。
五つの扉。
横一列に並ぶ、巨大な石扉。
それぞれが異なる紋様を刻まれ。
不気味な魔力を漂わせている。
どれも同じように見え。
どれも怪しい。
ミリアが思わず声を上げた。
「扉が……五つも……!?」
リオンが険しい表情で前を見る。
「……シューベットらしいですね」
「狡猾な男です」
「おそらく」
「正解の道は、一つだけでしょう」
ネイソンも頷く。
「間違いなく、他は罠でしょうね」
「これまで同様、侵入者を削るための悪意に満ちた構造です」
バーバラ。
「どうするんだい?」
ブロック。
「一つずつ潰していくか?」
※
常識的な判断。
慎重な進行。
……だが。
この場には。
常識を破壊する者たちがいた。
ダービルが、腕を組みながら低く言う。
「……ふん」
「それでは、時間がかかりすぎる」
ミリア。
(あっ)
(嫌な予感)
竹助。
「別行動を取るか」
ミリア。
「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」
絶叫。
当然だった。
「だってここ、魔王城ですよ!?」
「敵の本拠地ですよ!?」
「普通、分断とか避ける場面ですよね!?」
セリアーナが首を傾げる。
「どうかしましたか?」
「どうかしてるのはそっちです!!」
※
ダービル。
「心配するな」
「おまえは、俺と一緒だ」
ミリア。
「もう決定事項なんですね!?」
ダービル。
「当然だ」
「守ってやる」
ミリア。
「うぅ……それはありがとうございますですけど……!」
※
セリアーナ。
「私は勇者様と一緒です!」
ミリア。
「でしょうね!!」
一切の迷いがない。
※
ポウセンが、やれやれと肩をすくめる。
「まぁ……」
「効率的ではあるよな」
意外にも、合理的判断。
そして。
リオンたちへ視線を向ける。
「……お前ら」
「俺と一緒に来るか?」
リオン。
「え?」
ポウセン。
「俺は一人でも構わねぇけどよ」
「五人衆とか来たら、お前らきついんだろ?」
リオンたち。
「…………」
ネイソン。
「……正論ですね」
バーバラ。
「むしろありがたい」
ブロック。
「お願いします」
リオン。
「……よろしくお願いします」
ポウセン。
「よし」
「決まりだな」
※
こうして。
一行は、三組に分かれることとなった。
第一組
竹助 × セリアーナ
第二組
ダービル × ミリア
第三組
ポウセン × リオン一行
※
だが。
まだ疑問は残る。
セリアーナが、ふと残る二つの扉を見る。
「……残り二つが正解かもしれませんけどね」
ミリア。
「そうですよ!!」
「その可能性、普通に高いですよね!?」
だが。
ダービル。
「構わん」
「その時は、誰かが戻ればいいだけだ」
ポウセン。
「まぁ……確かにな」
合理的。
だが豪快。
竹助。
「心配ない」
一拍。
「筋肉が導いてくれる」
リオンたち。
「……え?」
セリアーナ。
「さすが勇者様!」
ミリア。
「もう分かりました……」
「考えるだけ無駄なんですね……」
半ば諦め。
だが。
その顔には、わずかな覚悟もあった。
※
それぞれが。
別々の扉の前へ立つ。
仲間を見る。
短い沈黙。
言葉は少ない。
だが。
確かな信頼が、そこにあった。
ダービル。
「死ぬなよ」
ポウセン。
「そっちこそな」
セリアーナ。
「必ず、また会いましょう!」
ミリア。
「……はい!」
竹助。
「行くぞ」
※
三組が、それぞれの扉へ進み出す。
魔王城内部。
より深く。
より危険な領域へ。
お互いの無事を祈りながら。
※
その頃。
最上階。
玉座の間。
魔王シューベット。
巨大な魔力映像越しに、その様子を眺めていた。
仮面の奥。
口元が、わずかに歪む。
「……とうとう来たか」
不敵な笑み。
「正解の道など……」
一拍。
「あれば、いいがな」
五つの扉。
その全てが。
絶望へ繋がる可能性を秘めていた。
魔王城そのものが、次なる悪意を剥き出しにしようとしていた。




