第54話 筋肉が交差する二つの勇者
荒廃した町の一角。
崩れた石壁の影。
砕けた荷車の横。
かつて市場だった広場の片隅で――
竹助たちと、勇者リオン一行は向かい合っていた。
シューベットの侵攻によって傷ついた町。
その中で。
二つの“勇者”が、初めて交差する。
※
「先程も名乗った通り」
若き青年が、一歩前に出る。
剣を携え。
傷つきながらも、その瞳には強い意志があった。
「私は勇者リオンです」
「魔王シューベットを倒すべく」
「異世界から召喚されました」
その言葉には、誇りと使命感があった。
異世界。
召喚。
勇者。
極めて“正統派”な存在。
※
竹助が、静かに反応する。
「……ほう」
リオンが少し身構える。
竹助。
「おまえもまた」
「筋肉の求道者なのか?」
沈黙。
リオン。
「……え?」
「筋肉?」
「なんですかそれ?」
※
セリアーナが、明らかに衝撃を受ける。
「筋肉じゃないんですか!?」
まるで、勇者である以上筋肉が前提条件であるかのような反応。
※
ミリア、即座に割って入る。
「ストップです!!」
「ちゃんと話を聞きましょう!!」
ようやく常識が機能した。
※
リオンは少し困惑しながらも続ける。
「……よく分かりませんが」
「私は剣の勇者です」
「そして、他の三人は――」
「待ってください、勇者様」
知的な声が制する。
眼鏡をかけた青年。
冷静な目。
整った口調。
「自分で説明します」
一歩前へ。
「私の名はネイソン」
「魔法使いです」
「以後、お見知りおきを」
理知的。
分析型。
※
続いて。
槍を担いだ女性。
勝気な笑み。
姉御肌。
「私はバーバラ」
「槍使いだよ!」
「よろしくな!」
明るく、力強い。
※
最後に。
巨大な盾を背負う大男。
圧倒的な防御役。
「俺はブロックだ」
「まぁ、タンク役だな」
頼れる壁。
※
非常にバランスがいい。
剣。
魔法。
槍。
盾。
王道パーティ。
ミリアの目が少し潤む。
(すごい……!)
(ちゃんと普通の勇者パーティだ……!)
※
すると。
セリアーナが前に出た。
「それなら!」
「こちらも自己紹介しますね!」
やる気満々。
「私はセリアーナ!」
「神官を務めさせていただいております!」
丁寧。
礼儀正しい。
※
ミリアも続く。
「私は補助神官のミリアです!」
「よろしくお願いします!」
正常。
非常に正常。
……ここまでは。
※
そして。
全員の視線が竹助へ向く。
嫌な予感。
ミリアの背筋に冷たいものが走る。
※
竹助。
「通りすがりの筋肉だ」
沈黙。
リオンたち。
「……は?」
※
空気が止まる。
ミリア、頭を抱える。
(やっぱり!!)
※
ポウセンが、咳払いしながら前に出る。
「魔王オーマ様の四天王の一人」
「ポウセン」
「切り込み隊長だ」
※
リオンたち、さらに硬直。
「ま、魔王軍!?」
「四天王!?」
「え、敵!?」
※
ネイソンが整理を試みる。
「……いや」
「オーマと言っていた」
「つまり、シューベットとは別勢力……?」
冷静。
さすが知性担当。
※
ダービルが、一歩前へ。
圧。
「同じく」
「魔王オーマ様の四天王の一人」
「ダービルだ」
一拍。
「人は俺を――」
「“魔王軍最高の筋肉を持つ男”と呼ぶ」
沈黙。
情報量が重い。
※
バーバラ。
「……筋肉?」
ブロック。
「えぇ……」
※
竹助が、静かにダービルを見る。
「筋肉は裏切らない」
ダービル。
「筋肉こそ、至高なり」
まるで儀式。
※
リオン。
「……君たちの勇者って」
「少し変じゃない?」
※
ミリア。
「……全然少しじゃないですけど、変です」
本音。
ネイソン。
「……大変ですね」
心からの同情。
ミリア、少し救われる。
※
その後。
ようやく本題へ。
リオンが真剣な表情に戻る。
「私たちは必死に抵抗していますが……」
「シューベットは領土拡大のため、広範囲に侵攻を続けています」
「後手後手に回っているんです」
ネイソンも頷く。
「被害範囲が広すぎる」
「各地の防衛だけで手一杯です」
ブロック。
「それに、やつらは強い」
バーバラ。
「特に五人衆」
「こいつらが厄介でね」
空気が重くなる。
リオン。
「私たち四人がかりで」
「五人衆一人と互角か、それ以下……」
ネイソン。
「以前、タラスコウと交戦しましたが……」
「非常に危険な相手でした」
※
セリアーナ。
「五人衆……?」
ポウセン。
「俺、そいつ倒したぞ」
沈黙。
リオンたち。
「……え?」
※
ポウセン。
「なんか結界魔方陣張るやつだろ?」
リオン。
「そ、そうだけど……」
※
ダービルも続く。
「俺も一人倒したぞ」
※
リオンたち。
「はい?」
※
ダービル、考える。
「確か……」
一拍。
「モストマスキュラーとか言っていたな」
※
ミリア、即座に叫ぶ。
「絶対違います!!」
※
ダービル。
「なら、おまえは覚えているのか?」
ミリア。
「え?」
沈黙。
「えーと……」
必死に思い出す。
「……なんか糸を使う人です」
※
ネイソン。
「ハードキー……!?」
リオン。
「そんな……!」
バーバラ。
「タラスコウに続いて、ハードキーまで!?」
ブロック。
「信じられん……」
※
リオンたちが、改めて竹助たちを見る。
勇者。
神官。
補助神官。
魔王軍四天王二名。
しかも。
五人衆二名撃破済み。
※
「……あんたら、一体何者なんだ?」
バーバラが思わず問う。
※
竹助。
「筋肉だ」
ダービル。
「筋肉だ」
セリアーナ。
「筋肉です!」
※
完全な沈黙。
※
ミリア。
「……もう嫌です、この説明」
だが。
その“異常な戦力”こそ。
シューベットを打ち破る、最大の希望でもあった。
二つの勇者。
二つの価値観。
王道と筋肉。
交わるはずのなかった二つの戦力が、今ここで一つになろうとしていた。
魔王シューベット討伐へ向け。
戦力は、さらに拡大していく。




