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第54話 筋肉が交差する二つの勇者

荒廃した町の一角。

崩れた石壁の影。

砕けた荷車の横。

かつて市場だった広場の片隅で――

竹助たちと、勇者リオン一行は向かい合っていた。

シューベットの侵攻によって傷ついた町。

その中で。

二つの“勇者”が、初めて交差する。

「先程も名乗った通り」

若き青年が、一歩前に出る。

剣を携え。

傷つきながらも、その瞳には強い意志があった。

「私は勇者リオンです」

「魔王シューベットを倒すべく」

「異世界から召喚されました」

その言葉には、誇りと使命感があった。

異世界。

召喚。

勇者。

極めて“正統派”な存在。

竹助が、静かに反応する。

「……ほう」

リオンが少し身構える。

竹助。

「おまえもまた」

「筋肉の求道者なのか?」

沈黙。

リオン。

「……え?」

「筋肉?」

「なんですかそれ?」

セリアーナが、明らかに衝撃を受ける。

「筋肉じゃないんですか!?」

まるで、勇者である以上筋肉が前提条件であるかのような反応。

ミリア、即座に割って入る。

「ストップです!!」

「ちゃんと話を聞きましょう!!」

ようやく常識が機能した。

リオンは少し困惑しながらも続ける。

「……よく分かりませんが」

「私は剣の勇者です」

「そして、他の三人は――」

「待ってください、勇者様」

知的な声が制する。

眼鏡をかけた青年。

冷静な目。

整った口調。

「自分で説明します」

一歩前へ。

「私の名はネイソン」

「魔法使いです」

「以後、お見知りおきを」

理知的。

分析型。

続いて。

槍を担いだ女性。

勝気な笑み。

姉御肌。

「私はバーバラ」

「槍使いだよ!」

「よろしくな!」

明るく、力強い。

最後に。

巨大な盾を背負う大男。

圧倒的な防御役。

「俺はブロックだ」

「まぁ、タンク役だな」

頼れる壁。

非常にバランスがいい。

剣。

魔法。

槍。

盾。

王道パーティ。

ミリアの目が少し潤む。

(すごい……!)

(ちゃんと普通の勇者パーティだ……!)

すると。

セリアーナが前に出た。

「それなら!」

「こちらも自己紹介しますね!」

やる気満々。

「私はセリアーナ!」

「神官を務めさせていただいております!」

丁寧。

礼儀正しい。

ミリアも続く。

「私は補助神官のミリアです!」

「よろしくお願いします!」

正常。

非常に正常。

……ここまでは。

そして。

全員の視線が竹助へ向く。

嫌な予感。

ミリアの背筋に冷たいものが走る。

竹助。

「通りすがりの筋肉だ」

沈黙。

リオンたち。

「……は?」

空気が止まる。

ミリア、頭を抱える。

(やっぱり!!)

ポウセンが、咳払いしながら前に出る。

「魔王オーマ様の四天王の一人」

「ポウセン」

「切り込み隊長だ」

リオンたち、さらに硬直。

「ま、魔王軍!?」

「四天王!?」

「え、敵!?」

ネイソンが整理を試みる。

「……いや」

「オーマと言っていた」

「つまり、シューベットとは別勢力……?」

冷静。

さすが知性担当。

ダービルが、一歩前へ。

圧。

「同じく」

「魔王オーマ様の四天王の一人」

「ダービルだ」

一拍。

「人は俺を――」

「“魔王軍最高の筋肉を持つ男”と呼ぶ」

沈黙。

情報量が重い。

バーバラ。

「……筋肉?」

ブロック。

「えぇ……」

竹助が、静かにダービルを見る。

「筋肉は裏切らない」

ダービル。

「筋肉こそ、至高なり」

まるで儀式。

リオン。

「……君たちの勇者って」

「少し変じゃない?」

ミリア。

「……全然少しじゃないですけど、変です」

本音。

ネイソン。

「……大変ですね」

心からの同情。

ミリア、少し救われる。

その後。

ようやく本題へ。

リオンが真剣な表情に戻る。

「私たちは必死に抵抗していますが……」

「シューベットは領土拡大のため、広範囲に侵攻を続けています」

「後手後手に回っているんです」

ネイソンも頷く。

「被害範囲が広すぎる」

「各地の防衛だけで手一杯です」

ブロック。

「それに、やつらは強い」

バーバラ。

「特に五人衆」

「こいつらが厄介でね」

空気が重くなる。

リオン。

「私たち四人がかりで」

「五人衆一人と互角か、それ以下……」

ネイソン。

「以前、タラスコウと交戦しましたが……」

「非常に危険な相手でした」

セリアーナ。

「五人衆……?」

ポウセン。

「俺、そいつ倒したぞ」

沈黙。

リオンたち。

「……え?」

ポウセン。

「なんか結界魔方陣張るやつだろ?」

リオン。

「そ、そうだけど……」

ダービルも続く。

「俺も一人倒したぞ」

リオンたち。

「はい?」

ダービル、考える。

「確か……」

一拍。

「モストマスキュラーとか言っていたな」

ミリア、即座に叫ぶ。

「絶対違います!!」

ダービル。

「なら、おまえは覚えているのか?」

ミリア。

「え?」

沈黙。

「えーと……」

必死に思い出す。

「……なんか糸を使う人です」

ネイソン。

「ハードキー……!?」

リオン。

「そんな……!」

バーバラ。

「タラスコウに続いて、ハードキーまで!?」

ブロック。

「信じられん……」

リオンたちが、改めて竹助たちを見る。

勇者。

神官。

補助神官。

魔王軍四天王二名。

しかも。

五人衆二名撃破済み。

「……あんたら、一体何者なんだ?」

バーバラが思わず問う。

竹助。

「筋肉だ」

ダービル。

「筋肉だ」

セリアーナ。

「筋肉です!」

完全な沈黙。

ミリア。

「……もう嫌です、この説明」

だが。

その“異常な戦力”こそ。

シューベットを打ち破る、最大の希望でもあった。

二つの勇者。

二つの価値観。

王道と筋肉。

交わるはずのなかった二つの戦力が、今ここで一つになろうとしていた。

魔王シューベット討伐へ向け。

戦力は、さらに拡大していく。

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