第53話 筋肉が導くもう一人の勇者
数日後。
魔王シューベットの侵攻を止めるべく、竹助たちは次なる情報を求め、新たな町へと向かっていた。
筋肉の勇者、竹助内人。
神官、セリアーナ。
補助神官、ミリア。
魔王オーマ軍四天王、ダービル。
魔王オーマ軍四天王、ポウセン。
奇妙で濃密すぎる五人の一行。
だが、その戦力は確かだった。
道中。
山道。
森。
岩場。
人通りの少ない街道。
平穏な旅になるはずもなかった。
シューベット軍の配下たちが、各地で待ち伏せしていた。
「侵入者を排除しろ!!」
「勇者をここで止めろ!!」
魔族たちが一斉に襲いかかる。
だが。
「遅い」
ポウセンの姿が消えた。
地面を蹴った瞬間。
その姿は風となり。
次の瞬間には、敵兵の背後。
拳。
蹴り。
手刀。
一撃ごとに、魔族兵が沈んでいく。
「一体確保!」
ポウセンは敵兵を地面へ押さえつけた。
「情報を吐け」
かつて最前線を駆けた切り込み隊長。
その経験は、単なる脳筋では終わらない。
敵の位置。
補給路。
拠点。
生け捕りにし、情報を得る。
理にかなった判断だった。
ミリアの目が少しだけ輝く。
(理論的……!)
(やっぱりこの人、話が通じる……!)
※
だが。
敵兵の口元が、不意に歪んだ。
「……!」
ポウセンが異変に気づく。
しかし。
ガクッ。
敵兵はその場に崩れ落ちた。
毒。
あらかじめ仕込まれていた自害用の毒。
「……ちっ」
ポウセンが舌打ちする。
「徹底してやがる」
末端兵ですら、情報漏洩を防ぐため命を捨てる。
その統率力。
その冷酷さ。
魔王シューベット。
ただの侵略者ではない。
確実に、知略を持つ敵だった。
ダービルが低く呟く。
「厄介な敵だな」
※
それでも。
竹助たちは進む。
襲撃してくる部隊を各個撃破。
竹助の拳が魔族を吹き飛ばし。
セリアーナの結界が退路を断ち。
ダービルが圧倒的筋力で粉砕し。
ポウセンが高速で制圧する。
ミリアが回復と支援を繋ぐ。
一行としての完成度は、着実に高まっていた。
だが。
敵拠点の場所だけは、まだ掴めない。
※
そして。
ようやく次なる町へ辿り着いた。
だが。
そこに広がっていたのは。
“町”とは呼び難い光景だった。
建物には大きなひび割れ。
壁は崩れ。
焼け跡が残る家屋。
砕けた荷車。
荒れ果てた市場。
かつて人々の活気で満ちていたはずの場所は。
今や恐怖と疲弊に支配されていた。
道端では、人々が肩を寄せ合い、震えている。
誰もが怯えていた。
次にいつ、魔族が来るのか。
それだけを恐れながら。
「そんな……」
ミリアが立ち尽くす。
王都育ちではない。
地方神殿出身。
だが、それでも。
ここまで露骨な侵略の爪痕を見るのは初めてだった。
胸が締め付けられる。
セリアーナが静かに竹助を見る。
「……シューベットの仕業でしょうか」
問い。
だが。
竹助が答えるより早く。
ポウセンが前に出た。
「聞いてみよう」
短い。
だが、的確。
推測ではなく、確認。
ミリアの中で再び感動が広がる。
(やっぱりまとも……!)
※
住民への聞き込み。
怯えながらも、少しずつ語られる真実。
「魔族が来たんだ……」
「食料を奪われた……」
「逆らった人は殺された……」
「シューベット軍だって言ってた……」
全てが繋がる。
魔王シューベット。
この町もまた、その侵略範囲だった。
※
「……許せません」
ミリアの声が震える。
怒り。
恐怖。
そして決意。
セリアーナも頷く。
「そうですね」
「一刻も早く、止めなければなりません」
神官として。
守る者として。
ポウセンが腕を組む。
「だが、敵のアジトが分からねぇ」
「帰っていった方向を追うしかねぇか……」
現実的な判断。
だが。
ダービルが低く言う。
「……わざと暴れて引きずり出すのも悪くない」
ミリア。
(やっぱり脳筋!!)
※
その時だった。
「魔族だぁぁぁ!!」
町に悲鳴が響く。
再び。
シューベット軍の部隊が現れた。
住民たちが怯え。
竹助たちが、即座に臨戦態勢へ入る。
だが。
その瞬間。
――カン!!
鋭い金属音。
魔族兵の一体が吹き飛んだ。
「なっ!?」
別方向から。
さらに斬撃。
槍。
剣。
魔法。
四人の若者たち。
息の合った見事な連携。
「左を抑えろ!」
「今だ!」
「押し返せ!!」
統率された戦い。
決して素人ではない。
この地で、戦い抜いてきた者たち。
そして。
魔族部隊は、瞬く間に全滅した。
※
ミリアが呆然と呟く。
「あの人たちは……?」
※
竹助たちが近づく。
すると。
そのうちの一人。
若き青年剣士が、鋭く剣を向けた。
「何者だ!!」
当然だった。
敵か味方か。
この世界では、一瞬の判断ミスが死を招く。
※
竹助。
静かに一歩前へ。
「通りすがりの筋肉だ」
沈黙。
青年。
「……は?」
※
セリアーナ、即座に補足。
「筋肉の勇者様です!」
さらに混乱。
※
ミリアが慌てて前に出る。
「あ、あの!」
「私たちは、魔王シューベットを倒すために旅をしています!」
※
その言葉。
四人の表情が、一変した。
「……勇者?」
「まさか……!」
「他の勇者が来てくれたのか!!」
※
ミリア。
「……他の勇者?」
理解不能。
勇者って複数いるものなの!?
常識がまた揺らぐ。
※
青年が剣を下ろす。
そして。
深く頭を下げた。
「失礼しました」
一歩前へ。
「私の名は――勇者リオン」
「シューベットに立ち向かうため」
「この地で戦い続けている者です!」
※
静寂。
新たなる勇者。
竹助とは異なる道を歩みながら。
同じ敵へ立ち向かう者。
※
セリアーナが静かに目を見開く。
「……勇者」
※
ダービル。
「……ほう」
※
ポウセン。
「面白くなってきたな」
※
ミリアだけが。
完全に置いていかれていた。
「え……?」
「勇者って……増えるんですか……?」
※
筋肉の勇者。
もう一人の勇者。
魔王シューベット。
複数の戦線。
物語は。
さらに大きく。
さらに熱く。
新たな局面へと進み始めていた。




