第52話 筋肉が支える王国
王都。
ギルド本部。
かつてないほど、空気が張り詰めていた。
冒険者たちの喧騒。
依頼の声。
訓練の掛け声。
普段なら絶え間なく響いているそれらが、今は妙に遠い。
重い。
王国全体が、見えない圧力を感じ始めていた。
※
ギルド長ガルドの前。
一枚の通信魔法紙が、淡く光を放っていた。
セリアーナからの報告。
内容は簡潔。
だが。
そこに記された“名”が、全てを変えた。
「……魔王シューベットだと?」
低く、重い声。
ガルドの眉間に深い皺が刻まれる。
周囲の空気が、一段冷えた。
※
その場には、すでに主要人物たちが集められていた。
魔王オーマ。
カイシン。
ポウサン。
そして、フィオナ。
王国と魔族。
理論と筋肉。
今や、一つの国家防衛のために並ぶ存在。
※
オーマが、静かに目を細める。
「……奴の仕業であったか」
その声には、明確な確信があった。
フィオナが即座に反応する。
「知っているのか?」
オーマは、ゆっくりと頷く。
「昔、やりあったことがある」
一拍。
「知略家でな」
「時間を与えると厄介なやつだ」
※
その言葉には、単なる敵評価以上の重みがあった。
“戦った者だけが知る危険性”。
それを理解した空気が、その場に広がる。
※
カイシンが、長い髭を撫でながら呟く。
「……ほう」
その目は鋭い。
単なる魔王ではない。
戦略で侵略する敵。
つまり。
“理論が通じる敵”でもある。
※
ポウサンが、一歩前に出る。
「援軍を送りますか?」
当然の提案。
だが。
オーマが、静かに手を上げた。
「いや」
一言。
全員が視線を向ける。
※
「勇者は、すでにダービルと合流したようだ」
「それに」
「ポウセンの故郷も近い」
「奴も合流する可能性が高い」
※
その瞬間。
ポウサンの目が見開かれる。
「おぉ……!」
「ダービルとポウセンが……!」
声に、明確な熱が宿る。
かつて共に戦った者だからこそ分かる。
その意味。
※
フィオナが、腕を組む。
「その二人なら知っている」
「だが……強いのか?」
率直な疑問。
彼女は、勇者との戦いしか見ていない。
四天王の本気を、まだ知らない。
※
カイシンも、静かに頷く。
「確かにのう」
「ワシらは勇者との戦いしか見ておらん」
※
そこで。
ポウサンが、迷いなく言い切った。
「あの二人の実力は、私が保証いたします」
空気が、少しだけ変わる。
ポウサンの声には、理論家としての冷静さがある。
だからこそ、その保証は重い。
「メギストラと同等の実力者ですよ」
※
フィオナの目が、わずかに細くなる。
「……メギストラか」
脳裏に蘇る。
かつての激戦。
フィオナ。
シエル。
セリアーナ。
三人がかりで。
辛勝。
圧倒的だった。
※
「それほどか……」
その一言で、理解する。
“前線は十分に強い”。
※
カイシンが、ゆっくり頷く。
「それなら、大丈夫そうじゃのう」
※
オーマが、全体を見渡す。
王として。
戦略家として。
「勇者」
「四天王二人」
「すでに前線にいる」
一拍。
「ならば」
「援軍部隊の編成と同時に」
「防衛線も構築する」
※
場が、一気に実務へ切り替わる。
カイシンも即座に応じる。
「そうじゃな」
「侵攻を前提に考えるべきじゃ」
※
ポウサンが、次々と整理する。
「では」
「最終防衛線には」
「オーマ様」
「カイシン様」
「そして私が入りましょう」
※
誰も異論はない。
王国最高戦力。
まさに“最後の壁”。
※
「第一防衛線には、魔族部隊を配置」
「侵攻速度を削ります」
※
さらに。
「騎士団とギルドからも援軍をお願いできますか?」
※
ガルドが、力強く頷く。
「任せておけ」
「冒険者を確保しておく」
その声には、ギルド長としての覚悟があった。
※
フィオナも、迷わず前に出る。
「承知した」
その瞳に、闘志が宿る。
「援軍には――」
一拍。
「私が行かせてもらうぞ」
※
その場が、静かに熱を帯びる。
騎士団長。
守護者。
そして、鍛え続ける戦士。
フィオナ自らが前線へ向かう。
それは、王国の本気そのものだった。
※
戦争が始まる。
だが。
単なる“力”ではない。
知略。
侵攻。
防衛。
連携。
筋肉だけでは終わらない。
だが。
その中心には、やはり“筋肉”がある。
※
オーマが、静かに立ち上がる。
「シューベット」
低く。
確かな敵意を込めて。
「好きにはさせぬ」
※
王国。
魔族。
騎士団。
ギルド。
全てが、一つになる。
迫る侵略。
迎え撃つ防衛。
そして。
最前線では。
勇者と、四天王たちが進む。
※
戦いは、より大きな局面へ。
筋肉が導く戦争は――
新たな段階へ突入していく。




