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第49話 筋肉を超える速度

風が、走っていた。

目に見えないほどの速さで。

村の中を、縫うように。

それは――ポウセンだった。

一歩。

踏み込む。

次の瞬間には、別の場所にいる。

拳。

蹴り。

一撃。

それだけで、魔族が崩れる。

骨が砕け。

肉が裂け。

悲鳴が上がる前に、次の一体が倒れる。

「な、なんだ……!」

魔族の一体が、後退る。

視界に捉えられない。

追えない。

認識できない。

ポウセンは止まらない。

速度が、さらに上がる。

“迷い”が消えたことで。

本来の動きが、解放されていた。

「こっちに集まれ!!」

ポウセンの声が響く。

村人たちが、はっとする。

指示。

それは、戦場の声だった。

迷いのない、命令。

「中央に集まれ!」

「動くな!」

「怪我人は寝かせろ!」

的確。

無駄がない。

村人たちが、一箇所に集まっていく。

ポウセンの動きが変わる。

守る範囲が、限定される。

視界が整理される。

「……いい」

小さく呟く。

これでいい。

次の瞬間。

速度が、さらに跳ね上がる。

一体。

二体。

三体。

魔族が、次々に沈む。

「ば、ばかな……!」

タラスコウの声が、初めて揺れる。

そして。

静寂。

残っているのは――

ポウセン。

タラスコウ。

それだけだった。

「ば、ばかな……」

タラスコウが、後ずさる。

部下は、全滅。

理解が、追いつかない。

ポウセンは、ゆっくりと歩み出る。

その表情は――

笑っていた。

口元が、吊り上がる。

目が、細くなる。

全身から、熱が立ち上る。

白い蒸気が、筋肉の隙間から噴き出す。

楽しんでいる。

その姿は、明らかに異質だった。

戦場に立ちながら。

喜びを感じている。

「何者だ、貴様……!?」

タラスコウが叫ぶ。

恐怖が、混ざる。

ポウセンが答える。

「魔王オーマ四天王」

一歩。

「切り込み隊長――ポウセンだ」

「なっ……!?」

タラスコウの目が見開かれる。

「四天王だと!?」

「なぜこんな田舎に……!」

ポウセンが肩をすくめる。

「俺にだって事情があるんだよ」

軽い。

だが、その奥にあるものは重い。

タラスコウの表情が、変わる。

恐怖から――

冷静へ。

「……残念だったな」

低く言う。

「準備は、終わっている」

ポウセンの足が止まる。

「……なに?」

次の瞬間。

地面が光る。

円。

線。

符号。

無数の魔方陣が、地面に広がっていた。

一つではない。

二つでもない。

数十。

タラスコウの周囲を覆っている。

「なかなかのスピードだ」

タラスコウが言う。

「だが」

一拍。

「届かなければ意味はない」

指を動かす。

魔方陣が脈動する。

「これはカウンター式でな」

「上を敵が通過すると、自動で発動する」

「つまり」

「俺に近づけば、死ぬ」

沈黙。

ポウセンが、ゆっくりと笑う。

「……そうか」

一拍。

「面白いな」

「何が面白い?」

タラスコウが眉をひそめる。

ポウセン。

「要するに」

「俺のスピードと」

「お前の魔方陣」

一拍。

「どっちが速いかってことだろ?」

「は?」

理解が追いつかない。

ポウセンが、距離を取る。

構える。

身体を沈める。

「いいだろう」

「受けて立ってやる」

「何をしている!?」

タラスコウが叫ぶ。

「カウンターだと言っているだろう!」

「近づけば終わりだぞ!?」

「うるせぇ」

ポウセンが吐き捨てる。

「敵のとっておきを」

一歩。

「真正面からねじ伏せる」

一拍。

「だから面白ぇんだろうが」

タラスコウの背に、冷たい汗が流れる。

(なんだこいつは……)

(狂っているのか……!?)

その時。

「ポウセンの兄ちゃん!」

子どもの声。

小さな声。

だが、真っ直ぐだった。

「そんなやつ、やっつけちゃえ!」

ポウセンが、振り返る。

一瞬だけ。

そして。

笑う。

「おう」

次の瞬間。

地面が爆ぜる。

ポウセンが、消える。

――速い。

視界から消える。

タラスコウの魔方陣が反応する。

発動。

爆発。

連鎖。

同時に。

両手で盾の魔方陣を展開する。

「バカめ!!」

「これで攻撃は――」

シュン

言葉が、途切れる。

ポウセンは、すでに通過していた。

一瞬の静寂。

タラスコウの首が、ずれる。

「……は?」

ズレる。

落ちる。

遅れて。

魔方陣が発動する。

爆発。

爆発。

爆発。

だが。

もう遅い。

ポウセンは、背後に立っていた。

「遅ぇんだよ」

小さく呟く。

戦いは、終わった。

村に、静けさが戻る。

村人たちは、震えながらも動き出す。

負傷者の手当て。

倒れた者の確認。

後片付け。

ポウセンも、その中にいた。

血に濡れた手で。

誰かを助けている。

その時。

新たな影が、村へと入ってくる。

「……ここか」

竹助。

セリアーナ。

ミリア。

そして――

ダービル。

ダービルが、口を開く。

「よう、ポウセン」

ポウセンが振り向く。

「……ダービル?」

一拍。

「なんでここに――」

視線が、横へ動く。

竹助。

「……え?」

完全に、思考が止まる。

「……えぇ!?」

村に、新たな波が広がった。

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