表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
49/70

第44話 筋肉で語る戦場

同刻。

町の外れへと続く山道。

人の気配は、ほとんどない。

踏み固められた土の道。

左右に広がる木々。

葉が擦れ合う音が、かすかに耳に届く。

風は穏やかで。

どこまでも、静かだった。

だが。

その静けさの中に。

ほんのわずかに、“異質”が混じっていた。

セリアーナの足が、止まる。

呼吸が、浅くなる。

肌が、粟立つ。

「……何か来ます」

小さく。

だが、確信を持った声。

その瞬間。

空気が変わる。

影が、揺れた。

木の陰。

枝の上。

視界の端に、複数の気配が走る。

そして――

現れる。

「……魔族!?」

セリアーナの声が、わずかに強張る。

目に映る姿。

確かな異形。

だが、それ以上に。

頭に浮かんだのは――別の可能性だった。

「そんな……もしかして、オーマさんが……」

疑念。

一瞬だけ、心をよぎる。

だが。

それは、すぐに断ち切られた。

「違うな」

竹助の声。

低く。

迷いなく。

「やつは、こんなことはしない」

断定。

理由は語らない。

だが。

その言葉には、揺るがない確信があった。

セリアーナは、頷く。

「……はい」

それだけで十分だった。

次の瞬間。

魔族たちが動いた。

一斉に。

迷いなく。

「やれ!」

号令。

空気を裂いて、距離が詰まる。

速い。

無駄がない。

訓練された動き。

殺意が、一直線に向かってくる。

だが――

「――結界」

セリアーナの声が、重なる。

空間が歪む。

透明な壁が、瞬時に展開される。

ガンッ!!

衝突。

重い音が、空気を震わせる。

魔族の攻撃は――止まった。

弾かれた。

「なっ!?」

驚愕の声。

だが。

それは“始まり”に過ぎなかった。

竹助が、前へ出る。

ゆっくりと。

一歩。

その動きには、焦りも力みもない。

だが。

地面が、わずかに沈む。

重い。

圧倒的な“重さ”。

拳が、振られる。

ただ、それだけ。

余計な動きは、一切ない。

ドンッ

遅れて、音が爆ぜる。

殴られた魔族の身体が――

耐えきれず。

弾けた。

爆散。

肉体が、形を保てない。

粉砕。

消滅に近い破壊。

「な、なに……!?」

残った魔族たちの動きが止まる。

目の前で起きた現象を、理解できない。

「こんな人間がいるなんて聞いてないぞ……!」

声が、震える。

戦意が、崩れる。

「撤退だ!!」

一体が叫ぶ。

判断は早い。

だが――

遅い。

「逃がしません」

セリアーナの手が動く。

空間に、線が走る。

結界。

後方。

側面。

逃げ道をなぞるように、次々と展開される。

空間が閉じる。

出口が、消える。

完全な封鎖。

「なっ……!?」

振り向く。

前には。

竹助。

逃げ場は、ない。

竹助が、静かに言う。

「さぁ」

一歩。

距離が、詰まる。

「筋肉で語ろうか」

その言葉は。

優しさではない。

宣告だった。

魔族たちの顔が、歪む。

「ひ……」

「ひぃぃ……!」

恐怖が、崩壊する。

そこから先は。

戦いではなかった。

蹂躙だった。

拳。

衝撃。

音。

一撃ごとに。

確実に、一体ずつ沈む。

逃げようとすれば。

結界が阻む。

踏み込めば。

拳が届く。

セリアーナの結界が、動きを制御する。

閉じ込める。

押し付ける。

逃がさない。

防御ではない。

“攻撃としての結界”。

そして。

竹助の、圧倒的破壊力。

完全な連携。

やがて。

音が消える。

風だけが、残る。

セリアーナが、ゆっくりと周囲を見渡す。

「……終わりましたね」

だが。

その目には、疑問が残っている。

「この魔族たちは、一体……」

ただの野良ではない。

統率。

役割。

目的。

すべてが揃っていた。

竹助が、静かに言う。

「……オーマから聞いたことがある」

セリアーナが視線を向ける。

「この世界には」

一拍。

「何人も魔王がいるらしい」

「え……?」

初めて聞く話。

理解が追いつかない。

竹助は続ける。

「それぞれが領土を持っている」

「距離も離れている」

「だから――」

「互いのことを知らないこともある」

セリアーナは、ゆっくりと息を吐く。

「そうなんですね……」

知らなかった。

必要がなかった。

だが今は――違う。

「では……」

竹助が頷く。

「あぁ」

短く。

「他の魔王の仕業だな」

場面は、変わる。

ミリアとダービル。

依然として、糸に拘束されていた。

締め付ける感触。

動こうとしても、びくともしない。

「くっ……!!」

ミリアが歯を食いしばる。

焦り。

恐怖。

呼吸が乱れる。

ハードキーが、静かに笑う。

「愚かなやつだ」

「これは私の魔力が込められた特製の糸」

「鋼すら断ち切る強度」

「身動きなど――」

その時。

プツン

小さな音。

「……なに?」

違和感。

プツン

もう一つ。

プツン、プツン

音が増える。

糸が揺れる。

軋む。

ミリアの目が見開かれる。

ダービルの身体が――動いている。

いや。

“押し広げている”。

糸を。

力で。

「ばかな……!」

ハードキーの表情が崩れる。

ありえない。

そのはずだった。

ダービルが、ゆっくりと顔を上げる。

その目に宿るのは。

怒り。

そして。

揺るがない確信。

「……貴様こそ、愚かだ」

低く。

地を這うような声。

さらに、力が込められる。

筋肉が、膨張する。

空気が、歪む。

糸が、悲鳴を上げる。

「筋肉は――」

一拍。

「制御不能だ」

ブチッ!!

すべての糸が、弾け飛ぶ。

空間が、解放される。

ミリアの身体からも、糸が外れる。

自由。

崩れそうになる足を、必死に踏ん張る。

「す、すごい……!!」

目の前の光景が、理解できない。

束縛。

支配。

それを。

ただ“力”で、ねじ伏せた。

ダービルが、一歩踏み出す。

地面が、わずかに沈む。

空気が、変わる。

重く。

鋭く。

圧が、満ちる。

「貴様は」

低く。

確実に。

「魔王様を、侮辱した」

その一言で。

場の温度が、下がる。

「覚悟はいいか」

魔王軍四天王。

そして。

魔王軍最高の筋肉を持つ男が。

今、爆発しようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ