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第42話 筋肉王の決断

夜。

ダービルの拠点となっている宿。

外の喧騒は、すでに遠く。

昼間の熱気が嘘のように、静けさが広がっていた。

木造の柱が軋む音。

低く灯るランプ。

壁に揺れる影。

落ち着いた空間。

だが――

そこにいる面々の空気は、決して穏やかではなかった。

竹助。

セリアーナ。

ミリア。

そして――ダービル。

互いに、言葉を交わす前から分かっている。

ここから、何かが動く。

「……それで」

沈黙を破ったのは、ダービルだった。

ゆっくりと口を開く。

視線は、まっすぐに竹助へ向けられている。

「お前たちは」

一拍。

「こんなところまで、何をしにきたのだ?」

低く、重い問い。

探るようでいて、試すような響き。

だが。

竹助は、迷わない。

「商人が襲われている」

短い。

無駄がない。

だが、それで十分だった。

セリアーナが、一歩前に出る。

言葉を補う。

「王国の僻地で、被害が広がっています」

「原因は不明」

一拍。

「その調査のために来ました」

静かな説明。

だが、芯は強い。

ダービルは、何も言わずに聞いていた。

視線も動かさず。

ただ、受け止める。

そして。

小さく、息を吐いた。

「……噂は、耳にしている」

ミリアが、思わず反応する。

「え?」

ダービルは続ける。

「この辺りでも、似た話が出ている」

「商人が消える」

「荷が消える」

「痕跡が、残らない」

淡々とした言葉。

だが、その内容は重い。

「実は俺も」

一拍。

「気になっていたところだ」

空気が、わずかに変わる。

偶然ではない。

繋がっている。

確実に。

セリアーナの目が、強くなる。

一歩、踏み出す。

「それなら……!!」

言葉が弾ける。

だが。

その続きを、待つ必要はなかった。

「……決まりだな」

ダービルが言う。

即断。

一切の迷いがない。

竹助が、わずかに頷く。

「……悪くない」

それだけで、話は成立する。

理屈ではない。

理解。

それで十分だった。

ミリアだけが、取り残される。

「え?え?」

視線が揺れる。

会話の速度についていけない。

一拍。

セリアーナが、はっきりと言い切る。

「一緒に調査しましょう!」

決定だった。

ミリアが、思わず叫ぶ。

「敵ですよね!?」

当然の疑問。

だが。

ダービルは、肩をわずかにすくめるだけだった。

「過去のことだ」

軽い。

あまりにも軽い。

「軽くないですって!!」

ミリアの声が響く。

だが。

誰も否定しない。

その時。

竹助が、ぽつりと口を開く。

「……オーマは」

ダービルの目が、わずかに動く。

空気が変わる。

ほんの僅かに。

重くなる。

「おまえのことを言っていたようだな」

低く、静かな声。

「なに?」

ダービルの声音が、変わる。

竹助は続ける。

「マッシュという町に行くよう言われた」

「行けば分かる」

「そう言っていた」

沈黙。

時間にすれば、ほんの一瞬。

だが。

確かな意味を持つ間。

ダービルは、ゆっくりと目を閉じる。

過去をなぞるように。

そして。

小さく息を吐いた。

「……ふ」

わずかに、笑う。

「オーマ様には」

一拍。

「全てお見通しということか」

その言葉には。

誇りがあった。

揺るがない忠義。

そして。

認められているという、確かな実感。

ミリアは、その空気を感じ取る。

(この人……)

ただの“筋肉の人”ではない。

強い。

そして――深い。

「なら」

ダービルが、立ち上がる。

椅子が、静かに軋む。

「話は早い」

「明日から行動開始だ」

決断は、すでに終わっている。

迷いはない。

セリアーナも、頷く。

だが。

ミリアだけが、追いつかない。

「ちょ、ちょっと待ってください!」

声が響く。

その時。

竹助が、短く言った。

「待て」

全員の視線が集まる。

一拍。

「プロテインの時間だ」

沈黙。

竹助は、慣れた手つきで準備を始める。

水。

粉末。

混ぜる。

無駄がない。

それもまた、積み重ね。

ダービルが、興味を示す。

わずかに身を乗り出す。

「……なんだ、それは」

竹助は、当然のように答える。

「筋肉の源だ」

その一言で。

空気が変わる。

ピクリ。

ダービルの表情が、わずかに動く。

「ほう」

低く。

だが、明確な興味。

「詳しく聞かせてもらおうか」

セリアーナも、すかさず加わる。

「それはですね――」

語り始める。

理論。

効果。

摂取のタイミング。

熱量が、一気に上がる。

ミリアだけが、置いていかれる。

「何この流れ!?」

完全に、理解不能。

だが。

三人の間には、確かな共通言語があった。

筋肉。

それだけで、繋がる。

こうして。

チームは、一つになろうとしていた。

……ただ一人を除いて。

こうして。

新たな一行が、動き出す。

筋肉の勇者。

神官。

補助神官。

そして。

魔王軍四天王。

奇妙な組み合わせ。

だが。

確かな“力”を持つ者たち。

その先に待つのは――

まだ見ぬ敵。

まだ知らぬ脅威。

物語は、次の局面へと進む。

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