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第41話 筋肉王の宿

町の熱気は、まだ冷めていなかった。

歓声の余韻。

興奮の残り火。

その中を。

竹助たちは、静かに歩いていた。

先導するのは、ダービル。

その背中を、ミリアはじっと見つめる。

(この人が……四天王……)

信じられない。

つい先ほどまで、“敵”だった存在。

それが今は、当たり前のように前を歩いている。

しかも。

町の人間も、魔族も。

誰一人として警戒していない。

むしろ――

「筋肉王様!」

「さっきのすごかったです!」

「今日も最高でした!」

声が飛ぶ。

ダービルは、軽く手を上げるだけで応じる。

当然のように。

(どうなってるの、この人……)

ミリアの理解は、追いつかない。

やがて。

一行は、一軒の宿へと辿り着く。

大きくはない。

だが、どこか頑丈な造り。

柱が太い。

扉も厚い。

明らかに、普通の宿とは違う。

「ここだ」

ダービルが短く言う。

中に入る。

木の軋む音。

だが、それすら心地よい。

内部は、簡素だが整っている。

無駄がない。

まるで、鍛えられた身体のように。

席につく。

しばしの静寂。

やがて、ダービルが口を開いた。

「……あの後だ」

視線は、竹助へ。

「お前に敗れた後」

一拍。

「俺は、消えた」

短い言葉。

だが、その裏には重みがあった。

「部下を連れ」

「人知れず、鍛え続けた」

淡々と語られる。

だが。

そこには、確かな意志があった。

「誰にも頼らず」

「誰にも見られず」

「ただ、積み上げた」

ミリアが、思わず息を呑む。

(……この人も)

竹助と同じだ。

いや。

それ以上に、孤独な積み重ね。

「この町には」

ダービルが続ける。

「偶然、通りかかった」

「最初は、ただの通過点だった」

だが。

「建築作業を手伝った」

「力仕事だ」

一拍。

「いい鍛錬になる」

当然のように言う。

セリアーナが、深く頷く。

「理にかなっています」

「ですよね!?」

ミリアが叫ぶ。

だが、誰も気にしない。

ダービルは続ける。

「気づけば」

「居着いていた」

「いつの間にか」

「筋肉王と呼ばれるようになった」

「断ったんだがな」

ぽつりと、付け加える。

「だが、周りが勝手にそう呼ぶ」

ミリアは、頭を抱えた。

(この世界、どうなってるの……)

ふと。

ダービルの表情が変わる。

わずかに、眉が動く。

「……だが」

「妙な話も聞いた」

空気が、少しだけ引き締まる。

「魔王軍と、人間が戦った」

「そして――」

一拍。

「和解したと」

ミリアが息を呑む。

セリアーナは、静かに頷く。

竹助は、何も言わない。

それだけで、答えだった。

「さらに」

ダービルの視線が、鋭くなる。

「お前が」

「魔王様と戦ったとも聞いた」

沈黙。

そして。

ゆっくりと問う。

「どうだ」

一拍。

「魔王様は、強かっただろう?」

その声には。

敬意があった。

絶対の信頼。

揺るがない確信。

竹助は、わずかに目を細める。

「……あぁ」

短く、答える。

そして。

続けた。

「筋肉が通じ合った」

静寂。

ミリアが固まる。

「意味が分かりません!」

即座に叫ぶ。

ダービルは、少しだけ目を見開き。

そして――

笑った。

低く。

だが、どこか嬉しそうに。

「……そうだろう」

その一言には。

すべてが込められていた。

理解した者同士の、納得。

言葉にできないものへの、共感。

ミリアだけが。

その中に入れない。

「いや、分かってくださいよ!」

叫ぶ。

だが。

誰も説明しない。

できない。

なぜなら――

それは、言葉ではなく。

“積み重ね”だからだ。

夜は、静かに更けていく。

だが。

確実に。

何かが、動き始めていた。

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