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第40話 筋肉王の町

数日後。

三人は、目的の町へと辿り着いた。

長い道のりだった。

王都を離れ、街道を抜け、人気の少ない道を進み続けた先。

ようやく辿り着いた場所。

「……ここが」

ミリアが、足を止める。

その声には、期待と――わずかな不安が混じっていた。

目の前に広がるのは、小さな町。

石造りの家々。

素朴な造りの門。

煙の上がる煙突。

どこにでもあるような、地方の集落。

だが――

「……なんですか、これ」

一歩踏み入れた瞬間。

違和感が、肌にまとわりつく。

門の前に立つ男。

腕が、異様に太い。

ただ太いだけではない。

鍛え上げられた筋肉。

皮膚の下で脈打つ血管。

無駄が、一切ない。

その奥。

荷物を運ぶ商人。

重そうな木箱を、軽々と持ち上げている。

その動きに、無理がない。

日常の動作のように。

さらに。

広場では、子どもたちが並んでいた。

小さな身体。

だが。

「いち! に! さん!」

腕立て伏せ。

動きが揃っている。

呼吸も。

リズムも。

まるで訓練された兵士のように。

(また!?)

ミリアの思考が止まる。

王都でも見た。

あの“異様な光景”。

だが。

これは――

「濃い……」

無意識に、言葉が漏れる。

空気が違う。

この町は。

“筋肉が当たり前”になっている。

セリアーナが、小さく呟く。

「……筋肉の気配がします」

まるで当然のように。

「気配って何ですか!?」

ミリアの声が、少し裏返る。

理解が、追いつかない。

「筋肉王様が帰ってくるぞ!」

その一言で。

町の空気が、弾けた。

一瞬だった。

人が動く。

店の中から。

家の中から。

裏路地から。

まるで合図でもあったかのように、人が溢れ出す。

足音。

ざわめき。

期待。

熱。

気がつけば。

道路の両端に、びっしりと町民が並んでいた。

一列ではない。

何重にも重なり、壁のように。

視線が、一点に集まる。

(なんでこんなことになってるの!?)

ミリアの心臓が早くなる。

完全に、飲まれていた。

その空気に。

一方。

セリアーナは、周囲を見渡す。

わずかに、眉をひそめる。

「……筋肉王?」

一拍。

視線が、前へ向く。

「……勇者様がいるのに?」

明らかな、不満。

認めていない。

“その称号”を。

道路の奥。

空気が、押し込まれる。

ゆっくりと、男が歩いてくる。

その周囲には、魔族たち。

自然に道を空けている。

誰も、近づかない。

いや――

近づけない。

「魔族……?」

ミリアの声が震える。

セリアーナの目が、細くなる。

そして。

確信する。

「あの人は――」

わずかに、息を吸う。

「魔王軍四天王のダービル!」

空気が、さらに張り詰める。

「え、四天王!?」

ミリアの理解が、追いつかない。

「確か……魔王軍最高の筋肉を持つとかなんとか……!!」

「……えぇ」

現実と知識が、噛み合わない。

足音が止まる。

ダービルが、目の前で立つ。

ゆっくりと、顔を上げる。

視線が動く。

竹助へ。

「……お前は」

一拍。

「筋肉の勇者か」

低い声。

だが、確信がある。

竹助は、わずかに目を細める。

「……久しぶりだな」

それだけだった。

だが。

それで十分だった。

視線がぶつかる。

その瞬間。

空気が変わる。

張り詰める。

観客が、息を呑む。

その目には、明確な期待。

“これから起こるもの”を知っている目。

セリアーナが呟く。

「……来ます」

ミリア。

「……え?」

二人が、同時に構える。

無駄のない動き。

洗練された構え。

その瞬間。

町民が、一斉に叫ぶ。

「始まるぞ!!」

「対話だ!!」

「筋肉で語るぞ!!」

熱が、爆発する。

(対話!?)

ミリアの理解は、完全に置いていかれる。

――第一ラウンド

ダービル。

――フロント・ラットスプレッド。

広がる。

一瞬で、空間を押し広げる。

空気が、支配される。

「デカい!!広背筋!!」

「翼が生えてる!!」

「いや、飛べるぞあれ!!」

「圧がやばい!!」

竹助。

――フロント・ダブルバイセップス。

収束。

全てが、内に集まる。

密度。

完成度。

「キレてる!!」

「腕が刃物だ!!」

「筋肉に線が走ってる!!」

セリアーナが叫ぶ。

「勇者様!キレてます!」

「何がですか!?」

「上腕二頭筋です!」

「分かりません!!」

――第二ラウンド

ダービル。

――バック・ダブルバイセップス。

盛り上がる背中。

層。

重なり。

積み重ね。

「分厚い!!」

「背中に鬼がいる!!」

「いや、山だ!!」

竹助。

――バック・ラットスプレッド。

広がる。

流れる。

繋がる。

全てが、一つになる。

「美しい……!」

「流れてる!!」

「完成されてる!!」

セリアーナ。

「完璧です!」

ミリア。

「……もう帰りたい」

――最終ラウンド

ダービル。

渾身の。

――モストマスキュラー。

爆発。

全てを叩きつける。

「出たぁ!!」

「全部乗せだ!!」

「密度が違う!!」

その瞬間。

竹助の胸元が――

ズキッ

わずかに、反応する。

セリアーナが息を呑む。

「……違う」

「前回とは、違う」

竹助。

ゆっくりと動く。

一歩。

静かに。

確実に。

身体を横に向ける。

――サイドチェスト。

静止。

完成。

空気が、止まる。

「……なんだこれ」

「完成されすぎてる……」

「芸術だ……」

ダービル。

震える。

押される。

だが。

耐える。

踏みとどまる。

「耐えてる!!」

「立ってるぞ!!」

「前とは違う!!」

そして。

ゆっくりと。

構えを解いた。

ダービルが歩み寄る。

「さすがだな」

竹助も前に出る。

「高めたな」

二人は手を出し、握手する。

静寂。

そして――

歓声が爆発する。

「うおおおおおおおお!!」

全員が立ち上がる。

拍手。

スタンディングオベーション。

ミリアは、完全に取り残されていた。

「……え?」

「何これ……」

セリアーナも拍手している。

満足げに。

「対話です」

「意味が分かりません!!」

その叫びは、歓声にかき消された。

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