番外編 普通の村と筋肉
王都を出て、数日。
道は、徐々に細くなっていた。
人通りも減り。
すれ違う旅人も、まばらになる。
その分だけ。
空気は、静かだった。
「……減ってきましたね」
ミリアが、小さく呟く。
手に持った袋の中を覗く。
保存食。
干し肉。
パン。
どれも、残りわずか。
セリアーナも頷く。
「補充が必要ですね」
竹助は、何も言わない。
だが、歩みは止めない。
それが答えだった。
※
やがて。
小さな村が見えてきた。
煙が上がる。
畑が広がる。
子どもが走る。
どこにでもある、穏やかな風景。
そして――
「……あれ?」
ミリアが、足を止める。
違和感。
いや。
“違和感がないこと”への違和感。
「普通……?」
門の前の男。
筋肉は、ある。
だが。
“普通”の範囲だ。
過剰ではない。
誇示もしていない。
生活のための身体。
それだけ。
ミリアの肩から、力が抜ける。
「……普通です……!」
思わず、声が弾む。
セリアーナが、周囲を見渡す。
少しだけ、考え込むように。
「……まだまだ、ですね」
「何がですか!?」
※
村に入る。
誰も、騒がない。
誰も、集まらない。
ただ、日常があるだけ。
それが――
「落ち着く……」
ミリアが、心から呟く。
「やっと、普通の場所に来ました……」
セリアーナは、静かに頷く。
だが。
その目は、どこか遠くを見ていた。
「いずれ」
ぽつりと。
「広がります」
「何がですか!?」
「筋肉です」
「広げなくていいです!!」
※
宿を取る。
木造の、温かみのある建物。
軋む床。
柔らかな灯り。
そして――
ベッド。
ミリアが、思わず駆け寄る。
手で触れる。
「……ふかふか……」
沈む。
柔らかい。
包まれる。
「やっと……!」
そのまま、勢いよく座り込む。
「やっと、ふかふかのベッドで寝れます……!」
本音だった。
セリアーナが、少し微笑む。
「ミリアさんは慣れてませんもんね」
「慣れたくないです!」
即答だった。
「野宿がこんなに大変だとは思いませんでした……」
思い出す。
固い地面。
冷たい夜。
そして――
「勇者様が拳圧で作った洞窟ばかりでしたからね」
セリアーナが、当然のように言う。
ミリアが、ゆっくりと振り向く。
「……はい?」
「風も防げますし、安全です」
「いや、その文も色々とおかしいですからね!?」
洞窟。
作るものではない。
ましてや。
拳で。
※
その頃。
宿の裏。
静かな場所。
竹助が、一人。
立っていた。
何も言わず。
ただ。
腰を落とす。
――スクワット。
ゆっくりと。
確実に。
地面を踏みしめる。
上下。
呼吸。
繰り返す。
誰も見ていない。
だが。
関係ない。
積み重ねは、止まらない。
※
部屋の中。
ミリアは、天井を見上げていた。
「……静かですね」
ぽつりと呟く。
外の音も、穏やかだ。
人の声も、遠い。
戦いもない。
筋肉の圧もない。
ただ。
普通の夜。
セリアーナが、隣で言う。
「こういう時間も、大切です」
ミリアは、目を閉じる。
少しだけ、安心する。
考えないようにした。
ーー筋肉のことなどは。




