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番外編 普通の村と筋肉

王都を出て、数日。

道は、徐々に細くなっていた。

人通りも減り。

すれ違う旅人も、まばらになる。

その分だけ。

空気は、静かだった。

「……減ってきましたね」

ミリアが、小さく呟く。

手に持った袋の中を覗く。

保存食。

干し肉。

パン。

どれも、残りわずか。

セリアーナも頷く。

「補充が必要ですね」

竹助は、何も言わない。

だが、歩みは止めない。

それが答えだった。

やがて。

小さな村が見えてきた。

煙が上がる。

畑が広がる。

子どもが走る。

どこにでもある、穏やかな風景。

そして――

「……あれ?」

ミリアが、足を止める。

違和感。

いや。

“違和感がないこと”への違和感。

「普通……?」

門の前の男。

筋肉は、ある。

だが。

“普通”の範囲だ。

過剰ではない。

誇示もしていない。

生活のための身体。

それだけ。

ミリアの肩から、力が抜ける。

「……普通です……!」

思わず、声が弾む。

セリアーナが、周囲を見渡す。

少しだけ、考え込むように。

「……まだまだ、ですね」

「何がですか!?」

村に入る。

誰も、騒がない。

誰も、集まらない。

ただ、日常があるだけ。

それが――

「落ち着く……」

ミリアが、心から呟く。

「やっと、普通の場所に来ました……」

セリアーナは、静かに頷く。

だが。

その目は、どこか遠くを見ていた。

「いずれ」

ぽつりと。

「広がります」

「何がですか!?」

「筋肉です」

「広げなくていいです!!」

宿を取る。

木造の、温かみのある建物。

軋む床。

柔らかな灯り。

そして――

ベッド。

ミリアが、思わず駆け寄る。

手で触れる。

「……ふかふか……」

沈む。

柔らかい。

包まれる。

「やっと……!」

そのまま、勢いよく座り込む。

「やっと、ふかふかのベッドで寝れます……!」

本音だった。

セリアーナが、少し微笑む。

「ミリアさんは慣れてませんもんね」

「慣れたくないです!」

即答だった。

「野宿がこんなに大変だとは思いませんでした……」

思い出す。

固い地面。

冷たい夜。

そして――

「勇者様が拳圧で作った洞窟ばかりでしたからね」

セリアーナが、当然のように言う。

ミリアが、ゆっくりと振り向く。

「……はい?」

「風も防げますし、安全です」

「いや、その文も色々とおかしいですからね!?」

洞窟。

作るものではない。

ましてや。

拳で。

その頃。

宿の裏。

静かな場所。

竹助が、一人。

立っていた。

何も言わず。

ただ。

腰を落とす。

――スクワット。

ゆっくりと。

確実に。

地面を踏みしめる。

上下。

呼吸。

繰り返す。

誰も見ていない。

だが。

関係ない。

積み重ねは、止まらない。

部屋の中。

ミリアは、天井を見上げていた。

「……静かですね」

ぽつりと呟く。

外の音も、穏やかだ。

人の声も、遠い。

戦いもない。

筋肉の圧もない。

ただ。

普通の夜。

セリアーナが、隣で言う。

「こういう時間も、大切です」

ミリアは、目を閉じる。

少しだけ、安心する。

考えないようにした。

ーー筋肉のことなどは。

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